一夜

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「何を今更。いつもは散々、あれ買えこれ買えって言うくせに」 「え」 驚いた。 恋人同士、というからてっきりあの噂は確実なデマなのだと思い込んでいた。 急に思い出して、彼の全身へと視線を向ければ、首元から覗いた痣のような物が目に入る。 そうだ。この痣。 これが原因で、カツアゲされているのではないか、という噂を決定付けていた。 ワイシャツで首元が隠れていたから直ぐに気づけなかった。 「…そ、れ」 学校では絆創膏で隠された裏側。 初めて見るそこは、内出血している所もあれば、カサブタができている場所もある。 断りもなく指を伸ばせば、ジュンヤは黙って受け入れたことに、緊張が解けた。 隙間から滑り込ませた指先に伝わる熱。 そのことにずきりと胸が痛む。 「あぁ、これ。中々治らなくて」 擽ったそうに身をよじった彼はシャツのボタンを、ひとつ、ふたつと外すと、俺の手を払い除け、その傷口を掻きむしった。 痛々しい仕草に慌てて彼の腕を掴む。 「やめろって…」 こんな時、俺はどうしたらいいのだろう。 ごめんね、なんて言葉が相応しいとも思えない。 この“歪な関係”の終着点はどこなのか。 「…なんでナツメが悲しそうな顔するの? 自分でやったくせに」 「…そう、…かもしれないけど、さ」 呆れるように吐き捨てた言葉が胸に突き刺さる。 俺には、彼を救うことはできるのだろか? ナツメである俺が、今、出来る事はなんだろうか。 「ナツメ、今日ずっとへんだね」 ボタンを掛けなおし、立ち上がった彼はそのまま、 「降りるよ」 とだけ言い、いつの間にか開いていた扉に向かう。 その背中に俺は何も言えなかった。
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