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「はぁ……お参りでもするか…」
少しでもこの心が何かを残せるうちに、伝えたいと思った。
今の俺にできることは、神に祈ることくらいだ。
いつもの通学路から少し逸れた細道を歩く。
木々の中にひっそりとそびえ立つ鳥居が、安心感を与えてくれた。
鳥居の前で一礼し、参道のわき道を歩く。
神社は午前中に参拝する方がいいと聞いたことがあるが、そのせいか、この時間の参拝客は俺一人だった。
手水舎で身を清め、大きく息を吸い込むと背筋が伸びる思いがする。
…涼しい。
木々に囲まれたこの神社は太陽の日差しを防ぎ、さわさわと心地よい風の音だけが耳を擽った。
日本人特有なのか神社というのはいつも、初心に立ちかえらせてくれるような、不思議なパワーを感じる。
境内を歩み、御社殿まで進む。
財布から小銭を数円摘み、投げ入れ、作法のごとく手を合わせた。
また、見えない彼の面影を抱いて。
…ヒビヤ ナツメ。俺はお前のこと全然知らないけど。
どうか、向こうで安らかにいますように。
そして、彼も…サイカワ ジュンヤも笑って…高校最後の夏を過ごせますように。
心の中で強く念じる。
自分のこと以外で神に祈るときが来るとは思わなかった。
合わせた掌が温かくなっていくのを感じ、ゆっくりと手を放す。
瞼の裏に微かに感じた彼の面影は、笑ってた、気がした。
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