海の日

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   「やっときた」  アパートを出た向かいにある公園で、一人ベンチに座ったサイカワ ジュンヤが駆け寄る。  俺の影を見つけた途端、嬉しそうに微笑んだ彼の表情に…少しだけ、恥ずかしさを覚えた。    「ほら、早くいこ」  引かれた腕から伝う湿った体温。  さっきまでのは確実に、夢ではないらしい。  何度確認しても、信じられないこの状況。  それでも、今あるこの瞬間だけは事実だと、そう伝えてくれる彼の体温に、とても安心した。    「あの…サイカワ君…いきなりで申し訳ないんだけどさ…」  俺の声に彼の歩みが止まる。  ゆっくりと振り向いたその顔が不思議そうに首を傾げた。  …言わなくちゃ。  …聞かなくちゃ。  …でもなんて?  じりじりと照りつける日差しが、脳を直接焼くように突き刺す。  噴き出す汗が俺の心の動揺をさらに増した。    「ねぇ」 「…は、はい!」 言い淀む俺に痺れを切らした彼が口を開く。  声には苛立ちと不満の色が伺えたことに、身体が勝手に反応を示した。 「俺を怒らせたいの?」 「えっ」 なにやら不機嫌になった様子に、俺は慌てて首を振る。  返す言葉も、聞くべきことも、今の俺にとっての最善がわからない。 俺は、同じクラスのヨコタニ リツです。今日は8月26日のはずですが、7月17日というのは本当ですか。起きたら別人になっていて、今の俺は誰ですか? それを伝えたところで何になるのか。 ましてや、誰が信じるのだろうか。 「………」 沈黙の間も、彼は手を離さなかった。  その事に少し安心する。 今の俺には、彼の体温だけが、現実と俺を繋ぐ唯一の証だ。  俺と彼の間に沈黙が流れ、緊張感が漂う。  鋭い視線を向けていた彼は、深いため息と共に緩まった。 「…またお得意の“新しいプレイ”ってやつ?」 「え」  突然の投げかけに、思わず身が硬直した。 …いきなり、何の話だかわからない。 戸惑いなんてお構い無しに、意気揚々と語り出す言葉は俺に向けたものなのか。  
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