海の日

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 「今度は何?シロートモノ?あんまり燃えないんだけど、それ」  「……えーと?」 「だとしても、今夜にとっておかない?これから楽しい旅の始まりなわけだし」 ね、と同意を求めた彼に、なんのことだか分からないまま、とりあえず頷く。  その後、ゆるやかに伸びた手が俺の頬を掠めた。 「じゃあ、改めて」 「……え?」 首元にするり、と細い腕が絡まる。 作り物のような綺麗な笑みを浮かべた彼は、息がかかる距離まで顔を近づけてきた。 俺は身動きすら取れず、見つめ返すことしかできない。 「……あ、の…サイカワ…く」    「ジュンヤ」 言い終わるより早く、被せた彼の真剣な瞳に、思わず息を飲む。 その瞳がなんだか凄く熱を帯びたものに感じるのは、この暑さのせいか。    「…あ、っと…ジュン、ヤ…」 初めて呼ぶ、彼の下の名前。 だけど、この身体で…この声で呼んだその名は、どこかしっくりきた。 「ん。なあに」 嬉しそうに微笑んだ彼をみて、名前のことを怒っていたのかと、ようやく分かった。  薄く乾いた唇から覗く、赤い舌。    細く、この手では折れてしまいそうな…しなやかな首筋。    艶やかな瞳から滲む……期待の色。  密着した身体と布が擦れあって、ある一点でぴたりと止まった。  その先に感じる熱い昂ぶりに……心臓が脈を打ち始めているのを感じる。    まるで、恋人同士の痴話喧嘩ようだ、と…純粋にそう思った時。  …まて、俺。    相手は男だ。 それも、クラスメイトのサイカワ ジュンヤだ。        
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