海の日

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  無意識に彼の腰に回しかけた手が止まり、重力のまま下に落ちていく。 それを彼の横目が追いかけた。 そっと、その細い身体から身を離せば、驚いたように目を丸くする。 「…珍しい。今日はがっつかないの?」 信じられない、というような目でこちらを見た彼が、シワになった服を軽く手で払う仕草を見せる。 その真っ直ぐな視線に居心地の悪さを感じずには居られない。  なぜなら、俺の下半身は……しっかりと反応しかけていたからだ。  ……落ち着け、俺。  何を興奮してる?誰に興奮してる?  相手は男、男、男……  体の変化により、異変が生じているんだ、そうに違いない。  自分のモノだけど、自分のモノじゃないような…制御が効かない感覚に恐怖を感じる。  頼む、鎮まれ…俺の…!!  確かに反応しているソコに意識を向けぬよう、きつく瞼を閉じて耐える。  徐々に引いた熱が俺を安堵へと導き、思わずほっと息を付いた。   戦いを終えた俺に、「…まぁ、いいけど」と告げた彼の顔をみることは、到底出来なかった。 「そんなことよりも!」 「…は、はい!?」 重い空気を切り裂いたその声は、さっきまでとは打って変わり、弾んでいた。 彼なりの気遣いかもしれないが、瞳はイキイキと光り輝いている。 「今日さ、なんの日だか知ってる?」 「わっ」 話し出したと同時に引かれた手が、俺の歩みを進めた。 彼が歩き出すと俺の足も勝手に動き出す。  「……あ…」    そのまま自然な手つきで、指と指を絡め合い、交差するようにして手をしっかりと繋がれた。  骨ばった関節部分が指先に触れて…、感じたことのない感触が、彼が男であることを改めて感じさせる。 男同士としては不自然な行為。  嫌だと思ってもおかしくはない状況なのに。  不思議と…嫌な気分はしなかった。   「なんの日か…って」 「ぶー、時間切れ。海の日でしたー」 5秒も経たず解答は締め切られ、彼の声に遮られる。 そんな子供のようなからかいに、苛立つよりも早く疑問が頭を巡った。 「海の日って…」 確か、7月の第3月曜日だったよな…。 先程みたスマートフォンの画面がよぎる。 どうやら、今日が7月17日であることは間違いないらしい。  物的証拠であるスマートフォンと、彼の証言が一致した。 情報が思いがけず得れたことは、非常にラッキーとも言える。  だが、それと同時に、この奇妙な現実がまごうことなき事実であると証明されたようで……頭が痛い。
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