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「…みんなに、伝えなきゃいけないことがあります」
うだるような暑さの中、蝉の鳴き声がひたすらに響き渡る。
いつもはどうでもいい会話で溢れている教室も、今は重く湿った空気だけが場を制していた。
このクラスの担任であるコバヤシ先生が、意を決したように口を開きーーーーーーー赤く塗られた唇は、小刻みに震えていた。
「……ヒビヤ ナツメ君が…、先日お亡くなりに、…なりました」
え。
一瞬、何を言っているのか理解が出来なかった。
亡くなった、という言葉の意味を脳内で反芻させる。
死を意味するであろうその言葉を、何度頭の中で巡らせようとも、導き出された答えは一緒だった。
心臓が激しく脈打ち、全身を血液が駆ける。
段々と荒くなる先生の呼吸音。
共鳴したかのように沸き立つ生徒たちの悲鳴。
この状況がただ事ではないのだと伝えていた。
…死んだ…?
あの、ヒビヤ ナツメが?
夏休み明け。
突如宣告されたクラスメイトの訃報。
同じクラスのヒビヤ ナツメ。
使われていないから、と窓際の一番前に追いやられた彼の席は、もういつの日からだったか…覚えていない。
カーテンから差し込んだ日差しが机を照らし続けている。
もちろん、そこに彼の姿はない。
人の死、それも身近な人の死。
どこか現実味のない先生の言葉が、だんだんと押し寄せて、心を軋ませた。
彼はあまり真面目とは言えない生徒だった。
入学してから、ほとんど学校には来ていなかったし、来たとしても学校でもめ事をおこして、帰ってしまう。その繰り返し。
いわゆる不良少年だった彼は、他の生徒たちと一線を画していた。
至って普通の生徒の一員である俺にとって、彼の存在はもはや無関心に等しい存在。
記憶の中で彼の面影を探したところで、何一つ思い出すことはないのに。
……なのに…なんでこんなに、息苦しいんだろう…。
そう思っているのは俺だけではなかった。
教室内に鼻をすする音、嗚咽を漏らすもの、過呼吸を起こすものがドミノ倒しのように現れる。
忘れもしないーーーーーー8月25日の出来事だった。
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