海の日

7/15
前へ
/31ページ
次へ
 抱えた頭から脳みそが飛び出しそうだ。    「だから、これから海に行きます」  「……え……、ええ!?」    唐突に放たれた発言にこんなにも驚いたのは、俺の生まれ育ったこの街には海がないから。  少なくとも、彼の言っている“男2人旅“は、日帰りで帰れる“弾丸旅行“ではないのだと分かる。  身一つで出かけてきてしまった俺は、もちろん一銭も持ち合わせてない。 あるのは、ポケットの奥底で眠る、見覚えないスマートフォン1台だ。 「ナツメ、海行きたいって言ってたでしょ」 「…!!あ、あぁ…」 ナツメ、そう呼ばれたことに身体が跳ねる。  一番大事なことを俺は忘れかけていた。 拳を握れば、腕に浮き出る太い血管。 大きく平たい無骨な手のひら。 いつもより少しばかり小さく見えるこの世界。 見ないふりをしていた現実が、鮮明に色付いて、その答えを出した。  「……ナツメ?」  心配そうに顔を覗き込んだ彼に、ハッとする。  本気で心配してるとわかるその顔に、  「…ごめん、なんでもない」  そういうのがやっとだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加