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抱えた頭から脳みそが飛び出しそうだ。
「だから、これから海に行きます」
「……え……、ええ!?」
唐突に放たれた発言にこんなにも驚いたのは、俺の生まれ育ったこの街には海がないから。
少なくとも、彼の言っている“男2人旅“は、日帰りで帰れる“弾丸旅行“ではないのだと分かる。
身一つで出かけてきてしまった俺は、もちろん一銭も持ち合わせてない。
あるのは、ポケットの奥底で眠る、見覚えないスマートフォン1台だ。
「ナツメ、海行きたいって言ってたでしょ」
「…!!あ、あぁ…」
ナツメ、そう呼ばれたことに身体が跳ねる。
一番大事なことを俺は忘れかけていた。
拳を握れば、腕に浮き出る太い血管。
大きく平たい無骨な手のひら。
いつもより少しばかり小さく見えるこの世界。
見ないふりをしていた現実が、鮮明に色付いて、その答えを出した。
「……ナツメ?」
心配そうに顔を覗き込んだ彼に、ハッとする。
本気で心配してるとわかるその顔に、
「…ごめん、なんでもない」
そういうのがやっとだった。
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