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「それで、ナツメは何が言いたかったの?」
「…ん?」
「ヨコタニ君」
「あぁ…」
幾度となく乗り継いだ電車が運んだ先は、知らない駅名ばかり。
体感2時間近く揺られたこの身体は、満たされた性欲も相まって、眠気との戦いを繰り返していた。
寝落ちしそうになる度、都合よく起こされ、電車を乗り換えるのは逆にありがたかったかもしれない。
…このまま眠ってしまったら、もう“彼”とは会えない気がしたから。
「ごめん、俺の勘違い…だったかも。さっきのは気にしないで」
上手く笑えたかは分からない。
それでも、今の俺には、これ以上この会話を続ける気は起きなかった。
「…勘違い?」
「そう、勘違い」
眉を顰めた彼の視線が痛くて、豪快に頭を撫でまわせば「なにっ」と言いながらも、彼はけらけらと笑った。
まやかしかもしれない。
それでも、この幸せを俺から壊すことは…今は出来そうにない。
「…ってか、これいつ着くの?」
車窓から見える景色は、見渡す限り田んぼと木々。
話を逸らして強引に誤魔化したが、以外にもジュンヤは気にした様子もなかった。
「あともう少しじゃない?ね?」
「…俺に同意を求められましても」
随分前から代わり映えのない景色を見ながら彼が呟く。
しばらくはこの状態を覚悟しかけた、その時、彼に湧いた疑問をぶつける。
「そういえば、お金は…本当にいいのか?」
ジュンヤは、一銭も持ち合わせてない俺に、乗車料や飲み物代まで何も言わず支払った。
ありがたい…というか、そうする他なかったのもあるが、正直、気が引ける。
申し訳なさで小さくなった俺の身体を、ジュンヤは驚いた目で見つめた。
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