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彼も、このクラスではある意味、一線を画している存在だった。
不登校のヒビヤ ナツメは不良的な印象があるが、一方のサイカワ ジュンヤは真面目で、もの静かな印象。
一見交わることのなさそうな二人だが、どうやら仲が良かったらしい。
学校外で二人が会っているのを目撃した生徒たちも多く、対照的な二人を周りは “歪な関係” だと揶揄していた。
「実はサイカワ ジュンヤも不良なのでは?」
「血の繋がってない生き別れの兄弟?」
「男同士で付き合ってたりして」
噂にも満たない、戯言。
そんな戯言も、ある出来事をきっかけに聞かなくなっていた。
なぜなら、今日の今日まで別の噂話が続いてきたからだ。
……あれは、今からちょうど1年くらい前か。
学年トップレベルの成績優秀だったサイカワ ジュンヤが、高校二年の暮れ頃、みるみるうちに成績が落ちていった事だ。
本人の答えは、
“アルバイトを始めて、勉強する時間が確保できなくなった”と言っていたらしい。
心配したコバヤシ先生が廊下に呼び出し、話し込んでいたのを、クラスメイトの一人が盗み聞きしていた。
そこでひとつの憶測が飛び交った。
“サイカワ ジュンヤ は ヒビヤ ナツメ にお金を貢がされているのではないか”
という話だ。
当時、俺はその話を聞いて、阿呆らしい、と思った。
サイカワ ジュンヤに対してではない。
周りのクラスメイトたちに、だ。
自分より秀でた存在を目の敵にして、噂し、あらぬ憶測を立てては騒ぎ立てる。
妬み、ひがみ、憎しみ、怒り……
そう言った醜い感情が、俺は大嫌いだ。
この件に関して最も厄介だったことは、噂を裏付ける “証拠らしきもの” があったことである。
サイカワ ジュンヤの身体のいたる所に存在する、痛々しい傷痕だ。
どうしたらそんな所に傷ができるのか、と思わずには居られない絆創膏の数々は、信憑性を増す材料となっていた。
それからというもの、受験を控えた生徒たちは一切彼に近づかなくなった。
もし彼と関わって自分まで ヒビヤ ナツメ の標的にされてはたまったもんじゃない、と。
人のことは散々おもちゃにしておいて、いざ自分のこととなるとわが身可愛さにに知らんぷり。
俺はこの馬鹿馬鹿しい奴らに吐き気がしていた。
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