サイカワ ジュンヤ

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 「友達が…死ぬって、どんな気持ちなんだろうな……」  自ら零した言葉に、喉の奥で何かがつっかえるのを感じた。  サイカワ ジュンヤにとって、ヒビヤ ナツメは大切な友人、と呼べる関係だったのかは分からない。  もしも、彼が噂通りーーーいじめを、受けていたのだとしたら…ヒビヤ ナツメの死を、喜んでいるのだろうか。  もうアルバイトをする必要もない。  いい大学に進学できるかも知れないと…、今からでも遅くないと、ここから一念発起でもするのか。 俺は、サイカワ ジュンヤという男のことを、何も知らない。 未だ絆創膏で隠されたその傷痕が、どれほどの痛みなのかも。 ーーーーーーなに一つ、知らない。 俺の言葉を聞いたミタは頷く以上のことはせず、それ以降何も言ってこなかった。  こういう時、余計なことを言わないミタという人間が好きだ。      もし、ミタが死んでしまったら……。    想像しただけでも涙が出そうな事柄を首を振って打ち消す。  心臓が苦しくて、辛くて、痛くて……どうにかなってしまいそうだ。  でも、もしもーーーーーーーーー。  もしも、今、サイカワ ジュンヤが同じ思いを抱え、苦しんでいたのだとしたら?  大好きだった友人の一人を失い、悲しみに打ちひしがれているのだとしたら……。    そう思った時には、身体が勝手に動いていた。  弁当箱を机に置き、ミタの視線を横目に受けながら、席を立つ。  「……サイカワ、クン」  彼は視線だけこちらに寄越した。 初めて呼んだ彼の名は…なんだか変な感じがした。  きっと、教室中の視線が俺に注がれている。 背中に感じる気配に見ないふりをして、彼を正面から見つめた。    「……えっと……その」    何も映さない、光を全て遮断したような……黒々とした瞳が、俺をじっと見つめていた。  しばらく散髪してないと見えるその髪は、後ろで緩く束ねられ、長い前髪が、瞳により深く影を落としていた。  「……っ」 ゾッとした。 瞳に渦巻く闇が、全てを諦めた人間のソレで。 まるで心臓を直接掴まれたように、呼吸が浅くなった。  特に理由もなく声をかけた事を後悔しても遅い。  絞り出した声はなんの意味も持たない、言葉の羅列だ。  「サイカワ君…その…大丈夫?」  記憶上初めての会話になるそれは、とてつもなく不自然で、究極にダサい。
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