ヨコタニ リツ

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 先生たちの計らいにより、放課後の部活動等は中止となった。  俺は、帰宅部で、通称アルバイターと呼ばれる生徒の一人だが、さすがにバイトも休みにしてもらった。  バイト先はもう事情を察しているのか、深く追求することはなかった。  「…あちー…」     こうして帰り道を誰とも並ばず帰るのは久しぶりだ。  夏の日は長い。  もう夕刻だというのにこんなにも熱く、太陽は額に汗を滲ませ、俺をイラつかせた。  そんな些細な愚痴すらも言える相手が隣にいないのは、なんだか物悲しい。  ……愚痴どころか…あいつは、もう二度と会えないんだよな…。    ふと昼間の出来事が思い出され、サイカワ ジュンヤの顔を浮かべた。  真っ黒に染まった、一切希望のない瞳。  血の通ってないような、真っ白な唇。  そして…何度も何度も擦ったであろう……赤く跡のついた目尻。    俺は、声をかけたことを心底後悔していた。  クラスメイトの非情な馬鹿どもとは違う。  人の心の痛みが誰よりわかるし、変な噂話もしない。  本当に助けを求めている人がいるのなら、迷わず手を差し伸べる。  そう思ってた。  でも違った。  結局は俺も奴らと何も変わらない。  相手のことなんて何も考えちゃいない。  自分の都合で、手を差し伸べて、いい気になって……勝手に見下していた。   馬鹿馬鹿しいと口では言うくせに、  そんなのは馬鹿がほざいてる戯言だと、そう思ったのに。  彼の傷痕を見ることが出来なかった。  「…なぁ。なんで…死んじゃったんだよ?」  ヒビヤ ナツメ。  お前にはこの世界がどんな風に見えてた?  空は青かった?  太陽は熱かった?  夏は嫌いだった?  俺と同じ思いを感じていたのだろうか。    話したこともない彼の姿を思い浮かべ、呟く。  思い出すことも出来ない、彼の面影を空に描いてみたけれど……案の定、上手くいかなかった。  
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