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「ほら、唯先輩」
かすみんが乾杯を促す。
「唯先輩の自由に!束縛ゴミ彼氏からの解放に!」
「束縛ゴミ彼氏て……」
「乾杯!」
それなりに重たいビールのジョッキと黒霧の入った陶器のグラスがコン、と控えめな音を立てた。
かすみんの辛口はいつも遠慮が無い。一瞬反応に詰まることは多々あるけど、的を得ているから結局納得してしまう。
「いやあ、洗脳解除されてくれて良かったですよ」
「洗脳て」
「洗脳でしょ?誰かとは二股かけてるって。今思えばって、うっすら気づいてたこと、あったんでしょ?」
「うーん……」
土日のデート。前なら二日間とも一緒にいて、土曜の夜は健二か私の家で過ごして。仕事が落ち着いていた時期は金曜の夜から一緒に過ごした。性欲が多分強い方の人で、夜を過ごす度にいつも抱かれていた。生理のとき以外はいつも。抱かれなかった日は無かった。
違和感があったのは、先月私が風邪引いて寝込んだとき。どちらかが体調を崩したら看病に駆けつけるのが常だったのに、その日は説得しないと来なかった。「俺の晩御飯は用意されてるわけ?」だなんて、38度超えてる彼女に言う言葉では無い。
それでも健二は来てくれた。でも健二が私の部屋でしていたのは看病ではなかった。私の部屋に置いていたゲーム機をいじり出し、部屋の電気を点けたままプレイし始めた。音量を上げようとした時には殺意を覚えた。
「こんなことなら、来ないでくれた方が良かった」と言い捨ててやりたかった。でも部屋に来るようお願いしたのは私で。38度超えの私の体には健二と喧嘩する体力など残っていなかった。
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