昔々の雨を降らせる裏技

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 照り付ける太陽に大地はひび割れ、作物は育たない。  不毛の大地はきつね色に焦げつき、大干ばつに見舞われた村は限界寸前だった。 「村長。不肖チセ、今こそ御恩を返させていただきます」  今年で10歳になる少女チセは、村長の部屋に入るなり頭を垂れた。  見ればチセは白色の花嫁衣裳のような死装束。  病床の村長はぎょっと身を起こす。 「ならぬチセ! もう数日、あと数日辛抱すればきっと雨が降るそれまでは」 「ですが村長、村人はもう歩くこともままなりませぬ。まだ死人がでていないことが奇跡に近いのです。今こそ、私が村長に拾われた恩を返す時でございます」  黒曜石じみた意志の強い瞳が村長に注がれる。  村長は「う」だの、「ぐっ…」だの呻いたのち、じたばたと赤子のように腕を振りはじめた。 「嫌じゃい嫌じゃい!! お主はワシの大事な娘じゃ! 血がつながっておらずとも、孤児じゃろうとも、村の者共が干ばつの際の生贄の為に育てようとかぬかしてワシにお主を押し付け、最初はいやいやじゃったワシもだんだんとお主が可愛くなり読み書きに護身術に作法に全てを注いだんじゃい!!」  一息でまくし立てた村長は「しんど…」と、ぜひゅーぜひゅー肩で息をする。  チセはそんな村長にすすすっと近づき、彼のしわくちゃの手を握った。 「村長。チセはあなたに育てられて幸せでした」 「ち、チセ……」  涙ぐむ村長がチセの両肩に手を置いた瞬間だった。 「せい!!」  チセの渾身の正拳突きが村長のみぞおちに入る。 「かっは!!」と村長の入れ歯が飛んだ。  衝撃波で家具が揺れ、障子の目が数枚破ける。 「チ、チ…セ…?」  何故と青白い顔を上げた村長に、チセはにこりと微笑む。 「安心してください村長。まだ力の1割も出しておりません。あなたが追いかけてこないように気絶させるだけです」 「そ……か……」  どさり。  村長はぐるんと白目をむいて床に臥せた。  チセはびくびくとけいれんする村長に優しく労わるように布団をかける。 「大丈夫ですよ村長。私はあなたに教えられた護身術で必ずや竜神さまを説得し、この村に雨を降らせます。だから、今はゆっくりお眠りください…」  チセは床の間を後にし、村長邸から外に出た。 「さて、竜神さまの祠はあの山の奥あたりでしたか……」  拳を握りしめたチセが歩み始めると、先ほどまでカンカン照りだった空が急に曇り、ぽつりぽつりと雨が降り出す。 「……あら?」  久方ぶりの雨の兆しに、林の鳥たちが一斉に空に飛びあがった。  鳥たちは空で奇妙にうごめき集合し、曇り空に文字を浮かべる。  烏合の文字だ。 ”こないでぇ”  この後、村に物凄い大雨が降ったのは語るまでもない。
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