わたしはまだ、しにたくない

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 ぴっぴっぴ…。病院を探索していると、リズムよく鳴る電子音が聞こえてくる部屋があった。興味本位で中を覗いてみる。真っ白な広い部屋にベッドがひとつ。ベッドはたくさんの機械に囲まれていた。そっとベッドの上の人を眺める。たくさんのチューブにつながれた、少女がいた。驚きのあまり、時間が止まる。寝ていたのは私だった。 ***  つまり、幽体離脱しているということだろう。どのくらい時間がたっただろうか、ようやく落ち着いた。戻ろうと思っても戻り方がわからないし、今このチューブだらけの体に戻っても困るだけだなぁと思う。ところでなんで私は病院で寝ているのだろう。思い出せない。一体いつからこうなっていたのだろう?私はもう、死んでしまったのだろうか。 ***  戻れないまま、時間だけが過ぎていく。いったい何日経ったのだろうか。日に日に増えていくチューブ。私の腕のスペースは次第に隙間なく、いろんな管で装飾されていく。果たして私は生きているのだろうか。それとも、これら機械に生かされているのだろうか。 ***  最近、お友達ができた。ミトさんだ。名前が思い出せないらしく、とりあえず自称しているらしい。どうやら彼女の本体はすでに亡くなっていると聞いた。久しぶりに自由に動ける体になって、ずいぶんと嬉しいらしく、あちこち動き回っているそうだ。でも、お友達といったけれど、実は一回しか会えていない。 私は誰なのだろう。とりあえず、そのときはアヤと名乗った。私はこの、ベッドの上に眠る、少女であることしかわからない。私は何者なのだろう? ***  ここにはなにもない。話せる人もほとんどいなければ、食べ物もない。睡眠もとる必要がない。親も、先生も、友達もいない。あるのは、私というからだとこの思考だけだ。いったい、私は?私とは? (終演) 語り部?  私とは何でしょうか?その身体と思考?では、あなたは何のために、なぜ、生きているのですか?生きているとはなんですか?  人は二回死ぬ。一回目は肉体、あるいは意識の消失による死。二回目は人に忘れ去られたときの死。一回死んだ先にある、世界の隙間にいる住人。そして住人は、他者との関係によって生かされている。他者との関係によって装飾された、私。すこしずつ、装飾が剥がれ、だんだんと、心の隙間が増えていく。私という輪郭が失われていく。そして、最後の装飾が剝がれたとき、人は死ぬ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!