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【第一章:離れても?】
もう一年半以上前になるのか。恋人の光が区役所職員目指して採用試験に挑んでいたのは。
一次発表の日、彼はWEBで合格を確かめるなり俊也にメッセージを寄越した。
「一次は受かったけど、次は二次の面接。……俺、ちゃんとできるかな。自信ない」
週末に約束して会った際、光は俊也に不安を吐露して来た。
「一次の試験て難しいんだろ? それを突破したんだからさすがだよ。面接は練習である程度はどうにかなるって。付け焼刃じゃ効果は知れてるけど、光はもともときちんとしてるんだから。緊張せずに自分の良さを出してアピールできたら大丈夫だよ」
御座なりな慰めなどではなかった。
俊也は心から四歳下の恋人を「真面目で真摯だ」と認めて、信じていたからだ。多少表面的に浮ついたところはあっても、根の部分ではきちんとした人間だと。
「面接の練習って大学でやってもらえるの?」
「希望者には対応しますって進路室の先生が言ってた。過去の卒業生の記録も見せてもらえるし、市販の問答集とかも揃ってるから、そういうの見て一応実地練習も頼もうかとは思ってる」
俊也の問いに彼は頷いて、不安そうな表情のまま話し出した。
「やっぱりさ、『面接』だから一度は人相手にやっときたいんだ。丸暗記じゃいざってときに応用利かないじゃん? そういうのも一回経験しないとわかんない気がするから」
この子なら大丈夫、と思ってはいても、それはまったくの『他人』には窺い知れない。伝えるためのテクニックも重要だ。
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