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幸い二次試験もその後の採用面接も無事に乗り越えて、光は採用内定を手にしていた。
《親御さんや香ちゃんも喜んでるんだろうな。》
内定の知らせに気づいたその場では時間がなくて祝福の言葉だけで済ませ、その夜落ち着いてから改めてメッセージを送る。
《まあね。俺、俊也さんの「おめでとう」で「あ、親に知らせてないや!」って慌ててメッセージ飛ばしたんだ〜。》
待つほどもなくトークルームに浮かんだ光からの返信に、俊也はなんとも表現しがたい気分になったのを覚えている。
人生にも関わる節目の重大事を、家族に対するよりも先に恋人である己に知らせてきた彼。
いや、順序は別にいい。光の両親と姉は日中は仕事で家を空けているのだから尚更だ。
しかし「普通は」すかさず家族にも、と考えるのではないか? それとも恋人優先こそが「普通」なのだろうか。
特に引きずるようなことではなく、光本人にも何も言いはしなかった。それでもあのときの微妙な感覚は、今も心の何処かに残っている気がする。
こんなことを気にする方がおかしいのではないか、という思いはあった。
俊也にとって「正式な恋人」は光が初めてなので、単に己が恋愛に慣れておらず、心の機微に疎いだけなのかもしれない。
そしてそのまま光は、大学を卒業すると同時に区役所職員として働き始めたのだ。
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