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◇ ◇ ◇
「──さん。俊也さん!」
俊也はソファの隣に腰掛けていた光に呼ばれて我に返る。心ここに非ずの状態だったことにもようやく気付いた。
せっかく恋人が部屋に来てくれているというのに、自分の世界に入り込んでどうするのだ。
「どうかした?」
「あ、ああ……。悪い、光。ちょっとぼんやりしてて」
このところ気を抜くと、つい余計なことを考えてしまうことが増えていた。良くない傾向だというのはわかっている。
「あの、もしかして具合悪い? 俺、今日は帰ろうか?」
気遣わし気な恋人の声に、そちらへ意識と共に身体も向けた。
「いや、そんなことないよ。それにうつるような病気じゃなければ、もし少々本調子じゃなくても泊ってけばいいさ」
こちらの勝手な事情で心配を掛けるのが申し訳ない、とどうにか笑顔を作る。
「そうだね。ベッド大きくなったし」
特に不審には映らなかったらしく、彼もすんなり納得してくれたようで俊也は密かに胸を撫で下ろした。
初対面のときには大学二年生で二十歳だった光は、もう社会人一年目も終わろうとしている。
週末には頻繁に泊りに来る恋人のために、俊也はシングルベッドをセミダブルに買い替えていた。
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