第1話

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第1話

4月3日。 飛行機に乗っている。 フランスから日本へ飛び立つ飛行機だ。 今日私、麻乃梨舞(あさのりま)は日本へ帰国する。 それは父からの一通の手紙だ。 【梨舞へ 突然で申し訳ないが、梨舞に帰国して欲しい。 梨舞のフランスでの高校生活は十分充実していたと思う。 けれど、つい先日お母さんが倒れてしまったんだ。 梨舞に連絡するのが遅くなってしまってすまない。 どうか、3日後の4月5日までには帰国して欲しい。 お父さんより】 こんな手紙を寄越して何のつもりだろう。 急にお母さんが倒れた? だから、何なのだろう。 私は... 《間もなく羽田空港に到着いたします。シートベルトを.....》 嫌な思い出が蘇る。 本当なら、充実した高校生活をフランスで過ごして、ずっとフランスにいたかった。 なのに... そんなことを考えながらいると、飛行機が日本に到着したようだ。 父からの手紙の日付まで数日はあるが、家に帰るとしよう。 家の前の呼び鈴を鳴らす。 『はい。麻乃家ですが』 少し低くい声。 記憶にしっかり残っている声だ。 「望月(もちづき)...」 『り、梨舞様ですか!?直ぐに門をお開け致します!』 そういうのとほぼ同時に門が開いた。 奥から長身の男が走ってくる。 「梨舞様!」 「望月」 見た目はチャラく見えてしまう。 けれど、それが望月だ。 応接間に通された。 部屋に上がる前に父か誰かから話でもあるのだろう。 扉が開く。 予感的中だ。 父が入ってくる。 「梨舞、急な手紙なのに戻るのが早くて助かる」 「...誰も戻りたいなんて思ってなかった」 「そう、だな」 私は手紙なんて無視してフランスにいるつもりだった。 だが、私が契約していたものを母が勝手に売り払ったと言うのだ。 そんなことをされれば、帰るしかない。 「で、なんで呼び戻したの?」 「それなんだがな....」 「つまり、妹の舞耶(まや)が倒れて、ショックを受けた母が倒れた、と?」 「そういう、ことだ」 「ふっ、笑わせないで。私がどれだけ苦労して生きてるか知ってるでしょ。やっと、フランスの高校生活に慣れてきて、幸せに暮らせていたのに」 「ああ、十分分かっているつもりだ。」 「なら...」 私の言葉を遮って父が言う。 「それでも、家の為に...力を...貸してくれ...」 そういう父の言葉は何故か震えているように聞こえた。 「私に力を貸してくれって?」 「ああ、」 「ふざけないで、お父さんのためで、舞耶のためであっても、それは結果としてあいつのためになる。それだけは絶対に嫌」 「梨舞...お前がお母さんのことを嫌うのは分かるが...」 今度は私が父の言葉を遮った。 「分かってない。私はあいつを母だなんて1度たりとも思ったことはない」 父は口を閉ざす。 それもそうだ。 自分の妻を自分の子供が母でないと言い張ったのだ。 言葉なんか出ないだろう。 けれど、私には関係ない。
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