152人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「はい」
『あ、マサちゃん?ママよ〜♡』
「!」
「!!」
電話相手――ママの声が聞こえたハジメとヤマサ。「げ」と眉間に皺を寄せ、マサシとのやり取りを聞いた。
「どうしたんだ、まだ病院じゃ……」
『終わったから帰るのよ〜。もう、ぎっくり腰なんて、最悪!自由に動けやしないんだから!
あ、タクシー捕まりそう!雨が降るから、てっきり待つかと思ったけど、早く帰れそうね。
じゃあ、あと30分くらいで家に帰るわね♡待っててね♡』
ピッ
静かに電話を切ったマサシ。だけど、表情は全く穏やかではなく――
「あと、」
「少しで、」
「帰ってくる!?」
お互いの青い顔を見た三人は、それぞれ洗濯物を目指して庭に出る。まるで特売の卵に群がる婦人のごとく、団子状態で三人は洗濯物へ手を伸ばした。
まずは、ハジメ。
「取った!」
と安堵した視線の先には、何故か女性ものの下着。ほぼ紐パンなそれは握りこぶしの中に隠せるほど、布の面積か少ない。
次に、ヤマサ。
「ぅおおりゃァァ!」
誰よりも意気込んで手を伸ばしたヤマサ。そんな彼が満を持して掴んたのは、男性用の下着。普段自分が履かないセクシー路線――いわゆるTバックだ。
先程ハジメが掴んだ紐パンと同じか、もしくはそれ以下の布の面積しかない。しかし、この状況では幸をなし、ヤマサもハジメ同様、握り拳の中にソレを隠した。
しかし一方で、二人のようにブツを隠せなかったのがマサシだ。彼は何に手を伸ばしたかというと――
「これだけはー!!」
女の子のキャラクターが下着姿でプリントされている、大きなバスタオルだった。家族の洗濯物と洗濯物の間に上手く隠して干していたソレは、今やマサシの腕の中で、照れくさそうに存在を主張していた。
「……」
「……」
「……」
一同がそれぞれ、それぞれの隠したい物を見てしまった今。
「そんなもの家族の洗濯物に紛れて干すなや!!」と言いたいのを、寸でのところで我慢している。
そう、相手を干したら最後。今度は自分が、竿には干されずとも家族の間で干される番だからだ。
だが、この場から上手くフェードアウトする決定打がない。この場からしれっと退場したいのを、誰もが叶えられないでいた。
しかし、状況は突然変わる。
ポツ、ポツ……
まさに三人にとって「恵みの雨」と言わざるを得ない雨雲が、三人の頭上にやってきたのだ。
「あ、雨……」
「わー。ほんとだー、雨だー」
「濡れる前に入らないといけないな」
そして、各々の足取りで家の中に入る三人たち。鬼の居ぬ間に洗濯――三兄弟は、今日がまさに、その日だったのだ。
余談だが、雨に濡れる洗濯物を見て。帰ってきた母親が悲鳴を上げたのは、言うまでもなかった。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!