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やましい事――
それは、ヤマサが言った、何気ない言葉。
しかし、マサシはメガネの奥で――まるで図星と言わんばかりに、黒目を小さくした。
機微に聡いハジメは、マサシの空気が揺れたのを見逃さなかった。「ふーん」と語尾を上がり調子にし、したり顔だ。
しかし。
忘れては行けない。
ヤマサからすれば、ハジメも充分に疑惑の対象であるということを。
「ハジメもさ。何が理由でそんな手伝いたいわけ?いつも母さんがアレコレ頼んでも渋い顔するくせにさ」
「……別に。なんだっていいでしょ。
そういう自分こそ、どうなの。ヤマサ」
「え〜?オレ?」
「ヤマサの口から“洗濯物を入れる”って……。天地がひっくり返るくらい、有り得ないんだけど?」
自分が後ろ指を刺される対象から外れたと知ったマサシは「そうだぞ」と、平然とハジメの猛攻に乗っかった。
「いつも不真面目なお前にしては、真面目すぎる発言だ。聞き捨てならない」
「いや、良いこと言ってんのに叱られるって、どーゆー事よ」
呆れた顔でトーストを食べ終えたヤマサ。食器を片すために椅子を立った。だが流し台に行く道のりで、とある物に目を移す。
「母さんがあんな事になってさ。出来ることはしときたいって、そー思っただけだっての」
ヤマサの瞳に映るのは、家族写真。息子三人が同じ高校の制服を着てる光景をぜひ撮りたいと、母きっての申し出で撮影した物だった。
ヤマサの目線に倣い、他の二人も写真立てを見る。そして口々に「そうだな」と頷いた。
「今しか出来ない事を、やらないとね」
「ハジメにしてはイイ事いうじゃん」
「“しては”、は余計だよ。ヤマサ」
「しかし間違ってない。俺たちが今できることを、確実にやっていこう」
意気投合した三人。そんな中。水を差すように、マサシのスマホが鳴った。マサシは着信相手を一目し、電話に出る。
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