152人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
始まりは、突然だった。
『午後からは雨が降るでしょう。降水確率は80パーセントで、傘が必要な天気となります』
土曜日、お昼の十二時。
ニュースキャスターの声を聞いて、食卓を囲んでいた三人の兄弟が――口々に物申し始めた。
「雨か。じゃあ俺が洗濯物入れるよ」
一番に名乗りを上げたのは、三男のハジメ。兄弟の中で最後に生まれたのに「ハジメ」という名前をつけられて有耶無耶を抱えている、現在プチ反抗期の高校一年生だ。
「いや、お前じゃ竿に手が届かない。俺がやっとくから、気にするな」
二番目に名乗りをあげたのは、長男のマサシ。メガネの似合う顔つきは「秀才」をイメージさせるが、その実――本当に秀才だったりする、受験真っ只中の高校三年生だ。
「俺が先に言ったんだから、俺が洗濯物を入れるよ」
「だから、お前には背が届かないから無理だと言っている」
「母さんが干したんだから、母さんより背が高い俺が届かないはずないでしょ」
フンと鼻を鳴らしたハジメ。だけど、メガネをカチャッとかけ直したマサシには、どうやら奥の手があるようだった。その証拠に、口角が少しだけ上がっている。
「残念だな。今日の洗濯物――右側は俺が干した。お前より背が高い俺が干したということは、お前は届かなくて当たり前だと言うことだ」
「なっ!?」
悔しそうな顔を浮かべるハジメを見て、マサシは今にも「ふふん」と鼻を鳴らしそうな勢いだ。
しかし、そんな飛ぶ鳥を落とす勢いで発言したのが――次男のヤマサだった。
「あ〜じゃあ間をとって、オレが洗濯物を入れるってどお?」
「……」
「……」
今の今まで、蚊帳の外を決め込んでトーストを食べていたのに、何を今さら――そんな声が、マサシとハジメから聞こえて来そうだ。
その空気をヤマサも感じ取ったのか「おー怖」と言って、トーストを持ったまま両手をあげる。
仕切り直し――と言わんばかりに、マサシが「とにかく」と語気を強めた。
「俺が干したのだから、俺が入れる。以上」
「な!ズル。手伝うってのに、そんなに拒否しないでいいでしょ?」
「そーそー。何かやましい事でもあんの?って、邪推しちゃうっての」
最初のコメントを投稿しよう!