さんじゅういち 二人の物語

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「いいえ、私のことはお気になさらずに」 「その、何の話でしたっけ……?」 「ん? ああ、あれは私の杞憂でした。何でもありません」 「そ、そうですか」  突然のマゼンダの登場で、混乱したビリジアンは、先ほどまで話していた内容をすっかり忘れてしまった。 「施錠は私がしますから、コンドルト先生は、先に上がってください」 「すみません、よろしくお願いします」  準備は終わっていたので、あとはキャメルに任せて先に帰ることになった。  二人でドアから出て振り返った時、キャメルは微笑みながら手を振ってくれた。 「ごちそうさま。リジー」 「わっ、あ、お疲れ様です」  ビリジアンはペコリと頭を下げたが、マズいことを聞かれてしまったと顔から湯気が上がりそうになった。  校門を出たところで、やっと息ができるようになったビリジアンは、マゼンダの背中をペチンと叩いた。 「あーー、あんなところでお前がリジーとか言うから、キャメル先生に聞かれてしまったじゃないか」 「本当ですよ。リジーと呼べるのは俺だけなのに!」 「いや、何でお前が怒るんだよ。好きに呼べとは言ったが、リジーって顔じゃないからやめろって言うのに」 「いいじゃないですか。愛称なんですから、私の目から見ると、よく似合ってます。愛しのリジー」  ムッとしていたビリジアンに近づいたマゼンダは、チュッと音を立てて頬に口付けてきた。  混乱していた気持ちも、こうやって触れられると一気に萎んで、何を悩んでいたのかどうでもよくなってしまう。  マゼンダは特別な魔法でも使えるのではないかといつも思う。  心を高鳴らせてくれるのも、落ち着かせてくれるのもマゼンダだった。  家までは馬車を使うこともなく徒歩で帰れる距離なので、マゼンダはたまに校門まで迎えに来てくれることがある。  校内まで迎えに来たのは初めてだった。 「……不意打ちだよ。今日会えないと思っていたから、嬉しかった」 「先生、本当に私のことが好きですね」 「悪いかよ」 「そんなっ、愛されてるなって、幸せな気持ちになります」  嬉しそうに笑ったマゼンダを見て、ビリジアンも嬉しくなって笑い返した。  まさかゲームのモブ教師である自分と、花形の攻略対象者であるマゼンダが結ばれるなんてエンドは、制作者でも考えなかったことだろう。
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