に  ピンチ到来

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「それは、王国からの手紙だ。学園は性を学ぶ重要な機関であるが、生徒の見本となる教師が独身で少子化に貢献していないのはいかがなものかと問われてしまった。このままだと、お前は学園をクビになり、私も王国仲人協会の理事から永久追放になる」 「ええ!? クビですか!?」 「そうだ、ここはあくまで王国の機関だから、私も含めお前も雇われなんだ。あぁ、これは大変なことになった。どうにかしなければ……」  学園長は頭を抱えた。  どうやらピンチらしいが、ビリジアンも頭を抱える事態だった。  クビだ。  この世界にいる最大の利点、職を失うことになってしまう。  ここでの再就職事情が分からないが、魔法生物学なんて需要のない分野、どう考えても簡単にできるとは思えない。 「い……いやです。困ります、そんなの。この歳で再就職なんて勘弁してください」 「だったら結婚しろ」 「へ?」 「お前が結婚すれば丸くおさまる話なんだ。今の住居を見てみろ、お前しかいないじゃないか。みんな結婚して残されたのはお前だけなんだよ」  独身男の城がグラグラと揺れ出した。  今までのビリジアンの平凡で穏やかな生活が、今まさに危機に面していた。 「幸い、頭を打ってから、生活が少し改善したように見える。これはチャンスだ。私が相手を見つけてくるから、直接会って結婚を決めてくるんだ!」 「……え、いっ、そっ……急にそんな……」 「急じゃない! もう十年近くこの話をしては、やだやだと逃げてきたじゃないか! だいたいお前はいつもやる前から諦めて、一切動こうとしなかったんだぞ」  ピシャリと言われてしまい、自分がやってきたわけでもないのに、胸が痛くなった。  それはまさに、イチローの人生と重なるものがあった。  仕事も彼女からも、面倒だと思うことから逃げてきた。  前向きになろうと言ってもらっても、自分には無理だとやる前からそう言っていた気がする。  総じてそんな人生だった。  その結果、両方とも手からこぼれ落ちて消えてしまった。 「で、でも……結婚か……」 「お前は女にモテないし、今まで会わせてもお互い引いて全然ダメだったからな。男にしたらどうだ?」 「はい!? 冗談ですよね?」
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