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さん 彼は攻略対象者
「ねぇ先ほどの、ご覧になりました?」
「ええ、中庭の……。羨ましいわ、バイオレットさん」
「私も、殿下とお近づきになりたい」
ため息をつきながら、廊下を歩く女子生徒達とすれ違った。
軽く会釈をされて返したが、漏れ聞こえてきた会話から、主人公が順調にゲームを進めていることが分かった。
おそらく今は、バーミリオン王子との出会いイベントの真っ最中、中庭のベンチで初めての会話をしているところだろう。
ベンチで昼寝をしていたバイオレットだったが、気がつくと横にバーミリオンが座っていた。
貴族や王族なんて性格が悪いと思い込んでいるバイオレットは、喧嘩腰で話しかけて、初対面はあまりいい雰囲気にはならない。
それは他の対象者も同じで、まずは全員険悪な雰囲気で、好感度はマイナス状態からスタートになるのだ。
入学式から一か月、授業も開始して落ち着いた頃、ようやく恋愛ゲームが動き出したようだ。
そっちは順調でもこっちはそうではない。
ビリジアンは、ゲームのことなど頭になかった。
どうせ自分には関係のないことだし、もっと大変な状況になっているのだ。
生物科準備室にたどり着いたビリジアンは、ドアを開けて中に入ると、机の上にある書類の山を見て倒れそうになった。
三日前、学園長が準備室を訪ねてきて、嬉々とした顔で、やったぞと言いながら机の真ん中に置いていった書類の山だ。
見ないようにして押していたら、ついに机の端になって、今にも崩れそうになっていた。
丁寧にまとめてくれたようだが、中を開いて見る気にならなくて、仮眠用のソファーに転がった。
「はぁ……どうすりゃいいんだ」
勘弁してくれと、天井を見ながらため息をついた。
学園長に結婚しろと言われて困りますと返したが、当たり前だがそれで解決する問題ではなかった。
ソファーに転がりながら、ビリジアンは事務机の方に視線を送った。
現実から目を逸らしたい。
この三日間、あれを全部燃やしてしまいたい衝動に駆られて、ダメだと我に返るの繰り返しだった。
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