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もう一度大きなため息を吐こうとしたら、コンコンと準備室のドアがノックされた。
ビリジアンは時計を見て、もうそんな時間だったかと慌てて起き上がった。
生徒と面談の予定を入れていたのをすっかり忘れていた。
「どうぞ、入って」
彼をここに呼ぶことになるとは、これまたよく分からない状況だ。
しかし、ここゲームの世界で登場人物だなんて、そんなものは本人達は知らないし、誰も信じないだろう。
だからビリジアンも、自分のやるべきことをちゃんとやらなくてはいけない。
教師としての顔になって声をかけた。
返事をしてから間もなく、失礼しますと聞こえてドアが開けられた。
見えてきたのは銀色のふわりとした髪に、鮮やかなピンク色、色白で彫刻のように整った美しい顔立ちの男子生徒、攻略対象者のひとりである、マゼンダだった。
「そこに座って」
「はい」
「ええと、マゼンタ・グラスだね」
「はい」
対面のソファーに座ったマゼンタは、見れば見るほど整った顔をしていた。
確か彼は、女性にモテモテで、恋愛の魔術師と呼ばれると書かれていたが、その通りに、ビリジアンとは対極にいるような存在に見えた。
「ここに呼ばれたわけはわかるかな?」
「……魔法生物学の授業に出席していないからですよね」
「ああ、その通りだね。君は一度も出ていないね、何か事情でもあるのかな?」
出席簿を確認しながら、ビリジアンが声をかけると、マゼンタは人形のような顔でどこか遠くを見ていた。
部屋に入ってきて、ソファーに座り、少し会話をしているが、彼は全くこちらを見ようとしていない。
関心がないのだなというのは、一目瞭然だった。
「生き物が苦手なんです」
「苦手……か」
「ええ、生き物全般、興味がないんです」
そう言ってマゼンタはふわりと笑った。
なかなか可愛らしい笑顔だったが、作り物みたいで胡散臭く感じてしまった。
「そうは言ってもね。君だけ特別扱いするわけにいかない。関心がなくとも、出席だけはしてくれないと……」
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