いち モブおじ先生の生活 

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 容姿も頭もこれといって秀でたところはなく、平凡に生きて平凡に大人になった。  記憶にあるところでは、歳は三十八、東京で働いていた会社がクビになり、同時に付き合っていた彼女にもフラれる。  再就職を目指すが、世の中は大不況、企業の雇用は冷え切っていた。  十八で就職して、社内でしか通用しない資格しか持っておらず、他にスキルもない中年男。  若者ですら就職難と言われる中で、面接すらたどり着けずに不採用が続き、ついに心が折れてしまった。  何十社目からか、お祈りメールをもらった時、しばらく休むことにした。  郷里にいた両親はすでに他界、兄弟もいない一人っ子。  田舎の土地には、誰も住んでいないボロ屋が残されていたので、整理するために帰郷することにした。  田舎の家に帰り、倉庫を整理していたら、子供の頃遊んだゲーム機が出てきた。  懐かしさに心が躍って、まだ使えるかもとテレビにセットしてみると、電源が入った。  懐かしのソフトで、当時を思い出しながら遊んでいると、箱の中に見たことがないソフトが入っているのが目に入った。  まったく記憶にないピンク色の花柄のケースが見えて、手に取って首を傾げた。  その時、思い出したのは、近所に住んでいたお姉ちゃんのことだった。  確か、その子の両親は留守がちで、よく家に遊びに来ては、勝手にイチローのゲーム機を使っていた。  そのお姉ちゃんが忘れていったものだろうと思った。  ソフトを取り出してみると、タイトルは『愛欲と傲慢DE偏見』と書かれていた。  子供のオモチャしては、毒々しいタイトルだなと思った。  説明書もなにもなかったので、パソコンを使って検索してみることにした。  ネットの情報によると、内容は女の子向けの恋愛乙女ゲームとなっていた。  当時は規制も何もない時代だったので、かなり過激な内容で、発売後に子供向けではないとクレームが来て、すぐに発売停止となり、その後、制作会社は倒産してしまう。  そのため幻のゲームと呼ばれていて、今では高値で取引されていた。  オークションでの価値を見たら、目玉が飛び出そうな価格になっていて、思わず声を上げて喜んでしまった。  多少の貯金はあるが、アルバイトで食い繋ごうと思っていたので、無職の人間には貴重な生活費になると思った。
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