いち モブおじ先生の生活 

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 また、先生と呼ばれて、よく分からない状況に、心臓がバクバクと鳴り出して、視界がぐるぐると回った。  再び辺りが真っ暗になって、次に気がついた時は、保健室のベッドの上で寝ていた。  白衣ではなく、黒衣を着た、学園医と名乗る女性に、教室で倒れて、教卓の角に頭をぶつけたと言われた。  まだ訳の分からない夢が続いているのかと頭を抱えた。  特に異常はないと言われて、学園医は忙しそうに行ってしまい、一人で保健室に取り残された。  とりあえず状況を把握しようと、胸に付いていた名札のようなものを取ると、そこには、ビリジアン・コンドルトと書かれていた。  その名札を二度見してしまった。  それはどう見ても、日本語ではないし、見たこともない文字だった。  それなのに、スラスラと読むことができて、また混乱して目眩がした。  よく見たら、自分の手もいつもより白い気がして、立ち上がってみると、やはりどこか違った。  フラフラと設置されていた鏡の前に立つと、そこには見たことがない男が立っていた。  これといって特徴はない薄い顔立ちだったが、深緑色の髪の毛で、目にかかった前髪を上げると、焦茶色の瞳があった。  目の色こそ、イチローに近いものはあったが、日本人と呼べるほど平たい顔ではなく、西洋人というほど彫りが深くもない。  とにかく微妙な顔の男で、目の下や口元のシワには、年齢を感じるものがあった。  え、怖っ……  そう口にして、自分の声ではないことに気がついたが、混乱が増しただけだった。  だれかこの状況を説明してくれと見回しても、誰もいない。スルスルと床に座り込んで、途方に暮れるしかなかった。  そこから結論に辿り着くまでは、それなりに時間がかかった。  一通り、ゲームの登場人物などを確認して覚えていたはずだったが、ビリジアンなる人物はいなかったからだ。  明らかにおかしい環境にビクビクしながら情報を集めて、学園や王国の名前、入学予定者の名簿などを見て、やっとここがゲームの世界だと気がついた時、混乱から解放されて喜んでしまったほどだ。  ようやく分かったことは、ここは『愛欲と傲慢DE偏見』のゲームの世界だということ。
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