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に ピンチ到来
桜の花びらが舞っている中、期待に胸を膨らませた様子の男女が、魔法学園の校門をくぐっている。
誰もがまだ幼さの残る顔をしていて、緊張した様子で学園の制服を着ていた。
政府の改革で、超奥手だった国民の意識はだいぶ改善したが、成人と呼ばれる十八歳までは恋愛を禁止にしている家も多いそうだ。
学園では解放的すぎる授業が待っているのだが、形だけはその名残を見せているのか、制服はかなり禁欲的な作りになっている。
女子は首まで詰まった白いブラウスに、黒のロングスカート、男子もシャツのボタンを首まで留めて、タイはなしで黒いコートに黒いズボンという格好だ。
「キラキラしてんねぇ、こっちは目が痛いってのに」
生徒達のキラキラした瞳を見ながら、ビリジアンは目を擦った。
三階にある魔法生物室の窓からは、校門の様子がよく見える。
ゲームの始まりをこれ以上ないベストポジションで見学できるのは、これじゃないという特典のようだ。
今はその特典より、特別休暇が欲しい。
前日の夜に、魔法省に送る研究書類の作成をすっかり忘れていて、徹夜をするはめになった。
おかげで提出は間に合ったが、朝から意識が飛びそうだった。
この歳になって、徹夜なんてするもんじゃない。
目はすっかり充血しているし、肩は何人か乗せているんじゃないかというくらいに重い。
正確にはイチローの頃だが、二十代までは無茶しても寝たら翌日には回復していた。
それが三十を超えたら下り坂で、這い上がれない。
どうやらビリジアンの体も、異世界だから特別仕様というわけではなく、しっかり年相応に作られているようだった。
窓に映る自分の顔を見たら、目の下に特大のクマができているので、こりゃひどいと口にしてしまった。
魔法目薬を入れて、ぱちぱちしていたら、ぼやけた視界がクリアになってきて、そこに元気に走る女の子の姿が見えた。
「あ……主人公」
思わず一人で呟いてしまったが、紫の長い髪を靡かせて校内に飛び込んできたのは、ゲームの世界の主人公であるバイオレットだった。
色白の肌に、桃色の頬、ぷっくりとした唇は薔薇の花のように赤く、薄緑色の大きな瞳をしていた。
お人形のような可愛らしい顔と紹介に載っていたが、まさにその通りで、童顔で可愛らしいタイプの主人公だった。
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