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いち モブおじ先生の生活
「コンドルト先生、さようなら」
大きな口を開けてあくびをしていたので、ビリジアンは返事をすることができずに、あーあーと変な声を上げてしまった。
後ろから声をかけてきた生徒のグループは、特に気にすることなく、談笑しながらビリジアンを追い抜いて行ってしまった。
たまたま教師を見かけたので、声をかけないと面倒だと思ってとりあえず挨拶をした。
友人同士の会話に夢中になって、声をかけた相手のことなどすぐに忘れてしまった。
小さくなっていく生徒達の背中を見ながら、ビリジアンは、そんなところだろうなと思って頭をかいた。
学園内で大口であくびをしていた自分が悪い。
こんなところをまた学園長に見られでもしたら、給与を減らすぞと怒られてしまう。
しっかりしろと反省した。
たとえ自分が誰からも気にされることもない、ただの空気であるモブだとしても、モブにはモブの生活があるのだ。
今度はなんとしてでもその生活を守らなくてはいけない。
異世界だというのに、馴染みのあるチャイムの音が流れてきた。
ここがどこなのか、自分が誰なのか、一瞬頭が真っ白になったビリジアンは立ち止まった。
見上げると、空はピンク色に染まっていた。
現実世界の夕日とは違って、この世界の夕日はかき氷のイチゴ味みたいな色になる。
口の中に懐かしい甘さを感じて、ビリジアンはため息をついた。
「はぁ……帰ろう」
なぜ自分がここにいるのだろうと、何度も考えたが、答えは出なかった。
多少の不便はあるが、今の生活に慣れつつあることもあって、ビリジアンはもうこのままでいいかと思い始めていた。
トボトボと歩いて帰る場所は、現実世界と変わらない、自由と書いて孤独と読む、男の城だ。
ビリジアンは過去を思い出しながら、学園の門を出て、一人家路に着いた。
◇◇◇
ビリジアン・コンドルト。
それが今の名前である。
今の、というのはワケがあって、実はビリジアンがいる世界は、ゲームの世界なのだ。
常人の理解を超えた話だが、つまりそういうことなのだ。
そういうことが何かを語るには、まずは現実世界の話をする必要がある。
スズキイチロー。
それが、現実世界での名前だった。
平凡だが、無駄にビッグネームのおかげで、名前はすぐに覚えてもらえた。
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