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女 そこのお兄さん!お・に・い・さ・ん!
男 えっ…(きょろきょろ)…お、俺?
女 そうです、そこのお兄さん、あなたです。
お願いです。命を…命を救っていただけませんか。
男 なんなんですか、いきなり。
「命を救う」なんて、責任が重すぎて、
正直あんまり関わりになりたくないというか…。
女 あぁ、そうですよね。わかります、わかります。
じゃあ、こういうのはいかがですか。
(ひそひそ)いまから30分の間に救済チャレンジに成功すると、
恩返し当選率10%アップで、特別サービスしちゃいます!
男 いや10%アップと言われても。
そもそも、恩返しって確率で当たるもんなんですか。
女 え、お兄さんもしかして、こういうお店は初めて…?
男 はぁ、恩返しをエサに契約を迫られたのは初めてですね。
女 あー、そうなんですかぁ。へぇー、ふぅーん。
男 なんなんですか、いったい。
女 それでしたら、私が手取り足取り教えてさしあげます。
お任せください!
男 えぇぇ。
女 いいですか?
まず、これ(ポイ)を優しくにぎって、
ここ(水槽)の中にそっと入れて…
男 え…待ってください。いきなり、入れていいんですか?
女 ふふ…もう、濡れてるの、わかりますか?
男 うわ…(ポイの和紙が)溶けてしまいそう。
女 あぁ、焦らないで。激しくしちゃいけません。
一度濡れたら、そこ(和紙)って、すごく弱いんです。
男 えっ、わっ…。
女 大丈夫です…いいですか。呼吸を合わせて…。
そのまま、良いところにあてて…あぁ、そこです!
男 うっ…いっけぇ…!(金魚をすくう)
(効果音:金魚が水槽に落ちて戻る)
女 …あ。
男 …あ。
女 …とうとう破れちゃいましたね、ポイ。
男 ――結局、俺は手持ちの金を全部はたいても、
金魚すくいの金魚を一匹も救うことはできなかった。
だが、もし俺の手で金魚を救えていたら…
もしかしたら金魚からの恩返しも、あったんだろうか…。
…(一瞬想像するが、我に返って)いやいやいや。
(店を後にする男に向かって)
女 金魚すくい・救済チャレンジに挑戦いただき、
ありがとうございましたー!
男 はぁ…「金魚すくい」って、こんなだったか?
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