世界に愛【AI】を

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 真面目なんだがフザけてるんだか、ここで某超有名ロボットの声真似が響く。 「だから、犬型ロボット~! のび太くん、これを使いなよ」   騒然とする休み時間の教室、斜め前に座る出木杉くん染みた優等生のメガネくんが吹き出して、 「似てるじゃん」 と、声を掛けて来る。確かに、わさびには似てるけど俺はのぶ代派なんだよと言いたいところだが、 「調子に乗るから褒めんなよ」 と返しておく。 「日本中のみんながさ、犬型ロボットを愛して癒されれば、この世界は平和になる、そう思わねぇ?」  俺はどっちかっていうと気ままな猫派だけど、とは言わない。 「仕事や学校で気に入らねぇこととかイヤなヤツとか、まぁいろいろあっても、家に帰って犬型ロボットの世話をして癒されて、犬っていいな、愛おしいなと思って暮らしてれば、戦争とか犯罪とか、なくなるって!」  戦争って、急に地球規模に飛躍したな。 「マジで馬鹿だな。んな簡単にいくかよ」  当たり前の反応として言い返す。こんな突拍子もない発想、うまくいくわけがない。 「俺が総理大臣になったらさ、お前を女房役、官房長官に指名しようと思ってたけど」  反対したからお役御免ってわけか、望むところだ、誰が補佐なんかしてやるか。  実は少し前から気になっていた、よく見ると赤茶色い黒目の奥が、頬や口許が緩んでいても全然笑っていない。  なんで、こんな目をするようになったんだ? 「やっぱりさ、ド理系のお前はロボット研究、つかマインドコントロールの研究をしてくれよ」  黙るしか、なかった。  そういうことかと、詳しい説明なんかされなくても想像がつく。  だから、そのガキみたいな顔で、輝かしい未来を語るみたいなキラキラした目で続けるのはやめてくれないか。 「犬型ロボットをさ、可愛いって思えば思うだけ、じっと見つめたり語り合ったり触れ合う機会が増えるじゃん? 眼からさ、催眠術でもかけて強制すればいいんだよ。手始めに、健康の為に煙草をやめなさい、過食をやめなさい、アルコールを控えなさい、とかからね。早寝早起きの為に眠らせるとか。最終的には争いごと、妬み嫉み、環境破壊をやめなさいってね」  ここで、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴る。  と、ほぼ同時に教師が入って来るが、俺と同じようにどこか虚ろな表情をしている。  またぐるりと姿勢を戻して、日直の号令に従い立ちあがって礼をする、一番近くにいるはずの親友が思い描くのは、世界平和の為の人類の調教だ。  人類の補助になる筈のAIに、人類が従属させられる。  そしてそれが素晴らしい世界だと、心から信じている親友が気怠そうに背凭れに深く沈み、今日も明日も、きっとずっと近くにいるのだろう。  その思想は、まるで神の世直しだ。  正しいような気もするのに、賛同することはできない。  それだけはハッキリとわかりつつ、まだ少しふわふわと浮く茶色い髪を見ていた。
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