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将来の夢は総理大臣。
その発言もかなりの、自分は他人とは違う、特別な存在なんだという思想つまり厨二病めいた内容だが、この親友が言う場合はかなりの現実味を帯びている。
コイツの家は所謂政治家一家で、ひいじいちゃんがかつての総理大臣、じいちゃんも父ちゃんも現役バリバリの政治家で親戚も官僚だらけだ。そして俺達が通う中学は、自分で言うのもなんだが日本トップクラスの進学校、誰でも知ってる某日本最高学府への進学率トップの、まぁわかりやすく言えば名門中学だ。
何度も言うが、夢は総理大臣……叶うわけないと一蹴できる環境ではない。
でも世界平和とまで飛躍すると、冗談だろフザけるなと返したくなる。
「生類憐れみの令、ってあるじゃん?」
互いに超が付く程の理系だが、一応知ってる。
江戸幕府第五代将軍・綱吉により、動物、嬰児、傷病人を保護することを目的に制定された。
僧の占いの言いなりとなって突如発令されたこの政策は、犬を殺せば極刑、病の牛馬を捨てるのは禁止、肉食の禁止、犬猫を繋ぐのは禁止など様々だが、特に犬を大事にせよとの印象強く、綱吉は犬公方と陰口され、代替わりの際に即時撤廃された天下の悪法と評価されている。
「最近さぁ、綱吉って実は名君だったんじゃね? って言われてんべ」
当時、飼い犬を様々な理由で捨てる、野良犬を刀の試し斬りと称し殺傷する、貧困故に生まれたばかりの赤ん坊を遺棄する、というようなことが当たり前に行われていた。
弱いものを養護する、という概念がそもそも欠如していたのだ。
そこで生類憐れみの令は、現代にも通ずる動物愛護の精神と合致する、その考えを初めて法律にした名君だという、人物の再評価がなされている。
「俺が総理大臣になったらさ、AI搭載のペットロボットを全世帯に無料配布する」
俺は、ここ最近で一番のボリュームで
「はぁ!?」
を口にした。
「あの犬型のヤツね。ほら、犬は古来から人類に寄り添って来た人間大好きな動物だから」
黒目勝ちなくるりとした目を一層大きくして語るので、どうやら本気らしい。
「犬好きに悪いヤツいねぇし、つか、だいたいみんな犬好きだべ」
そう言うコイツも生まれた時からずっと家には犬がいて、今はグレート・デーンという通称優しい巨人、大型かつ温和な相棒がいる。
「けどさ、仕事とか経済とか住居とかアレルギーとか、いろんな理由で犬が飼えないひとがいっぱいいるじゃん」
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