世界に愛【AI】を

　厨二病、という言葉がある。

　中学二年生頃の思春期に見られる、自己愛に満ちた空想などを揶揄もしくは自嘲する言葉だ。

　最近では、いいオトナが思春期めいた発言をするとこのような病気と断定されることが多いようだけど、俺達はリアルに中二で、今は授業の合間のたった１５分の貴重な休憩時間だ。

　幼稚園の頃からの腐れ縁というか悪友というか、よく言えば幼馴染で親友の生まれつきの茶髪をシャーペンのノック部分で突いた。

　厨二病どころか小二かよ、とツッコミたくなるような仕草、絶賛放送中らしい仮面ライダーがポーズを決めるプラスチック下敷きを如何にも軽そうに見える頭に擦り付け、ふわぁと髪を浮かび上がらせる遊びをしているその後姿を。

「なぁ、お前の夢ってなんだっけ」

　こんな質問をするのにも理由がある。藪から棒にガキっぽい夢語りを持ちかけたわけじゃない。

　直前の進路指導で、希望校を第三候補まで書け、という紙を配られたからだ。

　それにしてもこんな質問をする俺もどうかしてる。

　何故なら答えはそれこそ幼稚園の頃から聞き飽きているのだ。

「世界平和～！」

　振り向きざまにニヘラと効果音でもしそうな気の抜けたニヤケ顔で返して来るのが、見慣れた顔とはいえ充分に憎たらしい。

　しかしこの答えは予想外だ。聞き慣れた将来の夢は、より馬鹿っぽく進化していた。

「総理大臣じゃなかったのかよ」

　身体ごとこちらを向き、椅子の背凭れを抱く恰好で手前に組んだ腕に、流行の韓流アイドルみたいに整った顔面を乗せる。

　整形や化粧は勿論、洗顔後のスキンケアすらしたことない癖に、剝き卵みたいなツルンとした肌をしている。ちなみに俺は姉ちゃんがいるから、男は清潔感が大事、とか言いながら無理矢理ニキビ用の化粧水を叩かれているんだが。

　そうして女子達が騒ぎそうな上目遣いで返してくるが、ここは男子校だ。

「だーかーら、その先の。世界平和」

　聞いたこっちが馬鹿だった。

　初詣の絵馬を眺めると、毎年のように必ず見かける世界平和の文字のフザけた字体に出遭った時みたいに、舌打ちまでは行かないものの溜め息くらいは吐きたくなる。