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見るからに気持ち良さそうにオープンカーを運転するドライバー。それが横を駆け抜けて行くのを恨めしそうに目で追う男。彼は車を買いたくても買えない手元不如意な男。念の為、持って来た折り畳み傘の柄を握り締め、怨恨を込めて呟いた。
「雨よ降りやがれ」
ゴルフ場、それが男の仕事場だった。彼はキャディなのだ。見るからに気持ち良さそうにゴルフスイングするゴルファー。その飛球を目で追いながらナイスショットとヤケクソで叫ぶ男。人知れず彼は怨恨を込めて呟いた。
「雨よ降りやがれ」
すると願いが通じたのか本当に雨が降って来た。やがて大雨になり、ゴルファーは堪らすクラブハウスへ逃げ込んで行った。男はそれを目で追いながら、ざまあみろと呟き、まるでシャワーを浴びるように気持ち良さそうに雨に打たれ続けた。仕事が中止になって稼ぎが減ったのも忘れて…おまけに風邪を引いて寝込んでしまい、雨の野郎…何で降りやがった、何で濡らしやがったと自業自得なのに雨を呪った。挙句の果てに何日も仕事を休んだ所為で馘首されてしまった。そして無一文になり、路頭に迷い、炎天下の下、せめて喉の渇きを潤してくれとしわがれ声で呟いた。
「雨よ降りやがれ」
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