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第0章 序章…
西暦1582年04月03日。
ここは甲斐国にある天目山。
武田勝頼に付き従う家臣は、
僅か40人あまりでございました。
武田勝頼「…最期を迎える当主が俺だなんて御先祖様への不孝だな…。」
武田勝頼は…甲斐武田氏初代当主・武田信義の時代から受け継ぐ〈信〉の通字を唯一受け継いでない人間でした。
土屋昌恒「…お館様、そんな事を仰せにならないで下さい。通字がないから…そんな事など我ら40人にはどうでも宜しいです。お館様はお館様、それ以上でも以下でもありませぬ…」
土屋昌恒の言葉に頷くのは、
秋山紀伊守と安倍加賀守でした。
秋山紀伊守「我らはお館様に付き従いこの命を使い果たすと決めておりまする…。それなのに…お館様がそのような事を仰せになられてはなりませぬ…。」
安倍加賀守「左様、それでは我らの命には意味を見出す事が出来ませぬ…。お館様は諏訪勝頼ではなく武田勝頼。その事実だけで十分でござる。」
土屋昌恒と秋山紀伊守、安倍加賀守の紡ぐ言葉は勝頼の粉々になった自尊心を繋ぎ合わせる…までは出来ませんでしたが少しは救いになりました。
但し…
武田勝頼「最期を迎えるくらいならば信勝に全てを譲りせめて先代当主として武田の歴史に幕を下ろそうか…」
全てにおいて思い詰めている勝頼は、
どうやら更に自分の気持ちを追い詰めてしまっているようで…遠くを見つめながら既に終わりを見つめておりました…。
武田信勝…武田勝頼と織田信長の姪である遠山幸姫との間に産まれた嫡男でありこの年で16歳となりました。
※武田家の元服は他家の元服とは違い祖である武田信義が16歳で元服した為他家よりも1年遅い元服です。※
武田信勝は誰に似たのか周りの空気を読もうとはせず自身が気になる事だけを口にするところがありました。
武田信勝「父上には武田の初代当主と名前が似ている異母兄弟がいたとお聞きしたのですが本当ですか?」
そんな信勝の性格はともかく…
武田信義と名前が似ている異母兄と
言われた勝頼が思い出したのは…
武田義信「下がれ!勝頼!」
八幡原の戦いでバラバラになりかけながらも絆を取り戻した異母兄の事…
武田勝頼「八幡原でバラバラ事件…。
本当に寒いシャレを口にしているみたいだけど…懐かしい話だな…」
北条咲愛「八幡原でバラバラ事件って何だか物騒な響きですわね?お館様…。」
北条咲愛…北条氏康と松田憲秀の妹である彧との間に産まれた娘で北条氏政の異母妹。
武田勝頼「八幡原でバラバラ…になりかけながらも絆を取り戻した異母兄弟の物語であるからそんなに物騒な響きではない…」
咲愛と勝頼が話しているまさにその時
小田原城にいる北条氏政は…
北条氏政「咲愛は…咲愛だけでも武田を脱出出来ないのか?もう既に…脱出しているのではないのか?」
異母妹である咲愛の身を案じて…
風魔小太郎相手に答えが分かりきった
言葉を口にしていました。
風魔小太郎「北条氏康の血を色濃く受け継ぐ娘が…脱出などするものか…。咲愛の同母兄である上杉景虎も妻子と運命を共にしたのだぞ?」
風魔小太郎…北条家とは昔ながらの付き合いである風魔忍者隊の首領である。
北条氏政「何とかならんのか!」
氏政は乱世の理により最愛の妻である武田梅と異母弟である上杉景虎と今まさに…異母妹である咲愛すらも喪おうとしておりました。
そんな氏政ではありましたが、
姉である彩との仲だけは悪く
氏政「姉上が氏真などに固執しなければ北条の運命はもっと変わったのに…どうして…?」
北条彩…今川義元の嫡男である氏真の正室であり北条氏康に頼って小田原へ戻って来ていたが…北条氏政が姉に頼ってばかりの氏真を嫌い暗殺を計画していた事もあり今は徳川家の元に身を寄せている。
北条氏照「…姉上は我ら弟の事もその背で庇ってくれた心優しく強きお方だから…頼りないという理由で見捨てる事が出来なかったのでは?」
北条家の女性達は、
打算で物を考える事が出来ません。
彩が頼りないという理由で夫である今川氏真を見捨てる事が出来ないなら…
北条氏政「…咲愛も…か?」
風魔小太郎「分かりきった事を聞いても仕方あるまい。雷親父はどんな躾をしたのやら…」
北条氏康はどんな気持ちで黄泉国から見つめていたのでしょうか?
北条氏康「…」
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