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第1章 諏訪家の神在様。
武田勝頼の父親は、
武田信玄という法名の方が遥かに有名な武田晴信でございました。
武田信玄「奇しくも姉と同じ労咳になるなど…悲しい運命かも知れぬ…」
武田信玄の姉である武田慶子もまた労咳を患っており姉弟で同じ持病を持っていた武田信玄でしたが…
武田勝頼「…お館様の死は労咳ではなく胃癌だったとは真か?」
大井遥堅…武田信玄と武田信廉の主治医で労咳や癌などの病気に詳しい名医である。
大井遥堅「事実にございます、私は現在で大学病院の教授として働いていた事もありますのでお館様の所見は以前診ていた患者様の所見と同じです。」
大井遥堅は現在で医療事故を起こしてしまいその責任を取り自らの命を絶ったのですが戦国時代で異世界転生を果たしたようでございました。
武田信玄の死因に関しては胃癌だった事もあり勝頼はその死を暫しの間、隠す事を決めました…。
何やら重さを感じるくらい…
嫌な雰囲気を感じていた勝頼は…
勝頼「大井殿には…
確か娘がいるのではないか?」
武田信玄の死因から
話を変える事にしました。
大井遥堅の娘は…
遥堅「晴留香と申しまして
私が医療事故を起こしたのは娘である晴留香の婚約者でした。彼は植物状態となり耐えきれなくなった晴留香は自らの命を絶ち…私は妻に毎日責められてそれにより命を絶ちました。」
大井遥堅の後ろで遥堅の事を鋭い目で睨みつけていたのが…
大井晴留香「…絶対、許さない…」
前世と現世で大井遥堅の娘になった
大井晴留香でございました。
勝頼「…」
父と息子がわかり合えなかった事、
父と娘がわかり合えない事。
関係が近ければ関係が近い程、
絡まり合った糸はもつれ合い複雑さを増すのかも知れません。
そんな武田信玄が謀臣である山本勘助の勧めもあり寵姫として寵愛していたのが勝頼の母である諏訪廉華でした。
諏訪頼重の正室として小見優香里〈=小見の方〉は頼重の事をずっと支えておりましたが子どもは廉華しか恵まれませんでした。
そんな時、
諏訪頼重「優香里、済まない。私を長年支えてくれたそなたには申し訳ないが側室に降格して貰いたい。」
諏訪頼重の事を気に入った武田信虎が自身の娘である福音を正室に迎えて欲しいと懇願した事により…
優香里は側室に降格する事となり
武田を憎むようになりました。
廉華「…」
優香里は毎日3時になると丑三つ時のお参りをして福音を呪っていました。
優香里「あの女、廉華と歳も変わらぬというのに…頼重様の正室などと…憎い!」
廉華はそんな変わり果てた姿をしている母の事を見るだけで辛くなり…悲しくなりました。
廉華「…私は殿方に恋などしない…。」
恋が身を狂わせるのならば…
誰かを好きにならなければ良い。
そんな結論に至った廉華ではありましたが優香里の呪いは効力がなかったようで…それからすぐに…
諏訪頼重「廉華、そなたの異母弟だ。」
廉華の父親である諏訪頼重は、
福音との間に産まれた男児を愛おしそうにその腕に抱きしめていました。
廉華の隣に座る優香里は、
今にも倒れそうなくらい青ざめた顔をしておりました。
人を呪わば穴2つ…人を呪うとその人と自分の為に墓穴が2つ必要であるという意味で簡単に言うと人を呪うと自分も同じ目に遭うと言う事である。
頼重は諏訪家の嫡男である男児を産んだ福音の事を寵愛するようになり…
優香里「…」
優香里の元を訪れる事は…
全くありませんでした。
福音「寅王丸は頼重様に似ているので可愛らしいのですね?」
頼重「福音に似ているから可愛いのだ…。諏訪大社の血を受け継ぐ男児は神の加護を受けた男児だから…。」
優香里は福音と頼重の話を聞きたくないのでずっと耳に手を当てて塞ぎながら生活をするようになりました。
すると…
優香里「…何も聞こえない…」
優香里の耳は言葉を拾わなくなりましたがこれは頼重と福音が話している間だけのもので…
廉華「母上…?大事ありませぬか?」
廉華の声と諏訪家に代々仕える侍女の言葉ならば聞こえるのですが…
連歌「…」
福音の乳母であり武田から共に来た連歌を始めとする侍女達の声は…全く、両耳とも拾わなかったのです。
頼重の言葉すらその内拾わなくなり、
廉華は母の身を案じ…
優以「どうかしたの?廉華?」
優以…山川優以の元に
連れて行き見て貰う事にしました。
優以は廉華の友達で諏訪大社の境内に倒れていたところを保護したのですが
優以は長野県の諏訪市に住みながら心療内科を開業していた精神科の先生だったのです。
優以「付き合っていた消防士の彼氏から突然連絡が来なくなって諏訪大社の跡地に行ったの…全てをリセットしたくて…そしたらそこにあった古い屏風の中に転移したようで…今に至るって事…」
それはさておき…
心療内科の先生である優以の診断は、
優以「心因性難聴。恋を失った事によりその原因である武田家の人間と自分に見向きもしない諏訪の殿様の声だけが聞こえず廉華さんや諏訪家の侍女達の声は聞こえると言うのがそれですが原因を消す訳にはいかないし…」
優以が言う通り…
心理的影響が難聴を引き起こしているとしても対処方法などはありません。
優香里「…消す訳にもいかないけど、
もし武田が滅亡したなら…あの女も消えるんじゃないの…?」
あの女…福音への怒りにより優香里は
不穏な言葉ばかりを口にするようになり…廉華も母の身が案じられて仕方ありませんでした。
優以「あまり否定的な言葉ばかり口にしてはいけませんよ。」
優香里の居場所はいつの間にか福音の居場所となり…頼重の視線もいつしか…福音と寅王丸のものになっておりました…。
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