第3章 三角関係に似た何か

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けど、それを切り出すには時をみた方がいい。とかろうじて冷静さを取り戻し、わたしはとりあえず言葉を選んで一旦無難にその質問をやり過ごした。 「仲直りっていうか…。一方的に向こうがただかりかりしてただけなんで。喧嘩も何もないです。もう何言っても無駄だから、山本さんから話してもらうことになりました。放っとけば大したことじゃなかった。と気がついて自然と落ち着くでしょ。そのうち」 彼は口先だけ、って感じでもなく実に申し訳なさそうに呟いて頭上の梢の隙間を振り仰いだ。どうやら、わたしの台詞に込められた素っ気なさをただの照れと勘違いしてるようだ。 「うーん。…でも、純架さんに俺の担当をしてほしい、とごり押ししたのは確かだからさ。そのせいで二人の仲が拗れるのは内心、忸怩たるものがあるよ。良心の呵責を感じるっていうか…。俺、直接彼に会いに行ってきちんと話した方がいいかな?本当に絶対疾しい気持ちはないんだって。その方が安心してもらえるかも」 やっぱり。この人がわたしに執着する理由は恋愛とか、異性として好みだとか。そういう理由じゃないんだな。まあ、わかってたけどね。さすがにそれは。 夏生とか山本さんとか、周囲の人が勝手に想像するよりも。当人同士の方がその辺割と正確にわかるもんなんだよね。お互い異性として意識してる面が強いかどうか、何となくだけど伝わってきちゃうし。 わたしのことを極端にブスだとかまるで子ども、完全に対象外。と思ってるとまでは感じないが。普通に年頃のお嬢さん、と判断してそれなりに丁重に接しなきゃと考えてる。くらいの評価なような気がする。 じゃあどうして、わたしにガイドをお願いしたいって重ねてまで頼み込んで来たんだろう?と訝しくは思うものの。 その理由を正面から尋ねてこっちも承知しておいた方がいいのかな、って気持ちと。そこは何だかわからないけどあえて突っ込んで藪蛇になるのも嫌だから見ないふりで放っておきたい。って躊躇との間で判断が揺れる。 こうやって改めて接してみて、やっぱりわたしのことを好きだとか。そういうわけじゃないよなぁ…というのはちゃんと確認できたから。がちでそこはこれ以上触れない方がいい。ブラックボックスのままにしておくべきなんじゃとか、そこまでびびる必要はなくなった。 けど、ここで正面から。何でわたしをどうしてもあなたの担当に、って要望したんです?他の人じゃ駄目なの?とかいきなり切り出すのも。…うーん、どうだろう。そこまで絶対に理由を知らなきゃいけないのか?って自問自答すると。…正直なところ。まだよくわからない…。 もやもやした気分を振り払おうとしたせいもあって、必要以上にやけにきっぱりとしたもの言いになってしまった。 「いいんです。そもそもあいつとわたしは本当に、現実問題なんの関係でもないの。ただの同い年で一緒に育った幼馴染み、それだけです。だから実際は誰とどうなろうが夏生に弁解しなきゃいけない義理なんてないはずなんですよね」 思い返したら沸々と、胸の内に普段は蓋をしてごまかしてきた苛立ちが沸き上がってきた。 「…今回高橋くんがどうこう、って話だけじゃないよ?誤解だからとかそんなの関係なく、本当に誰かとそういうことになることだって今後絶対ないとは言えないけど。他のどんな男の人とだって、それはわたしの自由なはずなのに…。いちいちあいつに説明したり納得させたりするのおかしいよなぁって、ずっと思ってる。けどなかなか、…距離も取れないし。難しいね、狭い世界って」 「…よくはわかんないけど。大変そうだね」 事情は知らないがとりあえず、寄り添った声をかけておこう。みたいな高橋くんの曖昧な反応。 「俺はてっきり…。二人は婚約者か何かなのかと。だって、彼の言い分や態度といい。山本さんや他の村の大人たちの腫れ物に触れるような感じといい、さ…。君はもう彼のものになるって決まってるんだから、みたいな扱いだったよ。実はとっくに外堀埋まってるのに。純架ちゃんだけが納得できてないとか、何らかの理由で?」 「ていうか…。ここはそういう文化なんだよね、大体において。まあ成り立ちや環境を考えると。しょうがない、としか言いようがないのかもしれないけど…」 わたしたちはさっきみたいな石畳の敷かれてない、地面を人々が長い年月踏み固め続けてできた獣道のような林の中の山道を歩いて下っている。次は耕作地が見たい、と彼が要望したので。 ゆったりした歩みを止めずに、隣の彼の顔を僅かに見上げて話の先を続けた。 「今回あなたが来たことで、外にもまだ人が生存してるってわかった。けど、長年ずっと集落では。残ってるのは世界でここだけ、人類の存亡は自分たちにかかってる。って誇張じゃなく本気でそう信じられてた。わたしたちが滅ぶときは地球上からヒトがいなくなるときだって。…わかる?」 「なるほど。…まあ、そうなるよな。外がどうなってるか。軽い気持ちで試しに見に行くことすらできない立地なんだから…」 彼は少ししみじみして頷き、ため息をつく。
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