第3章 三角関係に似た何か

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何しろ若いし健康そうだし、頭はよさそうでしかもメンタルが安定してる。外の理論ややり方を持ち込んで引っ掻き回して、トラブルの元になりそうな気配もない。分を弁えてる、っていう大人や上層部の賢い人たちが実に喜びそうな性質を持ち合わせてる。 こんなお買い得な人、外から飛び込んで来ちゃったら。そりゃここに定住して一緒に協力して子孫もいっぱい増やしてください、ってなるよなぁ。ただでさえ百年以上、外部から新しい遺伝子が入ってきてない閉鎖空間の坩堝だし。新鮮な血筋が喉から手が出るほど欲しいってなるの、科学的観点からしてもやむなしだと思う。 「ここの仲間になって、誰かと所帯持って幸せに末永く暮らしてくださいって言われたの?村長とか偉い人たちから」 「いや。…昨夜いわゆるサルーン、って場所に連れて行かれた。それで誰でも好みの女の子と、自由にその。…っていいって。もちろん避妊はなしで、とか。その場のみんな満面の笑みで、悪気なくにこにこ勧めてきてさ…」 想像以上に露骨な状況に思わず唖然とした。 いやもうちょい、外から来た人に対して。外聞というか、この集落がどう見られるかは気にして欲しい。それじゃ相手の人格無視で、まるで種馬扱いしてるとしか。思われないじゃん! 「…すいません。めちゃめちゃ失礼な大人たちで」 とにかくぺこぺこと頭を下げる。わたしは別に何も悪くない、それはわかってるけど。高橋くんがこの集落の人たちのせいで不快な思いをしたのは、紛れもない事実だと思うから…。 彼は全く気にかけてる風でもない明るい表情を浮かべ、ちょっと面白がってるようにも聞こえる口振りでわたしを宥めた。 「いやまあ。あの人たちの立場というか、求めてることもわかるんだよ。合理的っちゃ合理的だよね。それに、ああいう申し出で喜ぶ男だって。結構それなりの割合で存在するってのはまあ、わからなくもないし。ただ俺はそういうのやだなって引いちゃった、ってだけの話。別にかっこつけたり、見栄張って言ってるわけじゃないよ。純架ちゃんならわかってくれると思うけど」 「はい」 こくこくと頷く。けど、そういう言われ方をしてみれば。 「…そっか。一瞬でうげ、と思っちゃったけど。人によっては酒池肉林、目の前にずらりと据え膳で最高に上手い話だ。って感じることもあるか…。それを信じらんない、とかどうこう言うのは傲慢だよね。わたしは男性じゃないし。それを嬉しいって思う気持ちが実感として理解できないってだけだから」 「いや女の子だったらそりゃ反射的にどん引きでおかしくないよ。けど、男なら誰でもそれを百パー喜ぶってわけでもないってだけの話。ほんとに人によるとしか…。でもよかった、純架ちゃんが俺のことをそういう風に思ってくれていて。本心ではその話に乗りたかったんじゃないの?痩せ我慢?って言われたらやっぱ凹むよね。そういう男たちのことを否定したいわけじゃないけど…」 「そうですね。何でだろう、高橋くんについては。…そうやって勧められて流れで受け入れちゃう。って場面がなんか、想像つかないから」 指摘されて首を捻る。 えーいいんですか、じゃあどうしてもって言うんなら。しょうがないなぁってやに下がってサルーンの綺麗どころと個室に消える彼はなんか解釈違い。 まだ出会ってから三日目でこの人の何を知ってるってわけでもないのに。何故だかそういう確信があった。 そもそも女の子に対して助平心を出してる部分を見たことがないせいかな。それだけを考えたら単に、わたしがこの人の好みじゃないからとも考えられる。てかむしろそのせいだろうと思うんだが。 何だろ、そういう緩さとか。素をだらしなく表に晒してるところが想像つかない。にこにこしてて元気で明るくてやけに人当たりはいいけど。 それはそれとして、常にしっかり気を張ってるというか。きちっと隅から隅までガードをしてて警戒を怠らず隙を見せたりしない。…っていうか…。 彼がのんびりした口調でまだ話を続けてることに気づいて、慌てて再び意識をそっちに行ける。 「そんな無責任なことはしたくない、ってひとまずやんわり断ったんだ。そしたら責任とかは全然取る必要ない、生まれてきた子の養育やその後のフォローについては集落で責任持つから。君は何も考えなくていいよって言われてさ…。そのときの場の雰囲気から推察するに、これってうっかり断りそびれて一回受け入れたら。それからほぼ毎日のように同じ誘いが相手を取っ替え引っ換え舞い込むやつだと想像できて。さすがにぞっとなっちゃってさ…」 「だよね。…お気の毒」 責任取らなくていい、って言ってるんだから正真正銘、子種を提供してくれるだけでいい。って意味でしかないよな。そしたら一度孕んだらそれで上がりの女の人と違って。おそらく受胎可能な相手を断られない限りばんばん当て上がってくるはず。…うーん、人によっては。ある意味、楽園。…なのかな? 「それで苦し紛れに。僕は恋愛とか結婚とか家庭にはそれなりに夢があるので。女性との関係は中途半端にしたくありません、って精一杯くそ真面目な顔して大胆に言ってのけたよ。頑張ってみんなの前できりっとした表情作って見せて、ね」
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