4人が本棚に入れています
本棚に追加
【確定的な今日】
・
・【確定的な今日】
・
今日も居残り確定だ。
スポーツクラブをしている連中に掃除を押し付けられて、俺だけ科学室の掃除をしている。
それにしても危険な薬品もあるという話なのに、先生もいないって、本当に俺は見捨てられている確定だ。
薬品のある棚には鍵が掛かっているといっても、こんな鍵じゃマジで手に入れようとするヤツだったら簡単に壊せるし。
まあ小学校にはそんな一発アウトな薬品は無いかもしれないけども。
さて、全体的に綺麗になったし、そろそろいいかなと思ったその時だった。
窓側から視線を感じたので、ふとそちらを見ると、そこには窓の外からこちらを見る俺と同じ、小学五年生くらいの男子が立っていた。いや少し身長低いか? 金髪で、瞳も何だか青くて、肌は透き通るように白くて、日本人といった感じがしないし、そもそもこの学校で見たこと無い。
侵入者なら変なヤツ確定なので、無視してランドセルを担いで帰ろうとするんだけども、俺が動く度に直線上になるようにその男子も動いて何か気になる。
そもそもこんな日陰の俺に進んで関わってくるようなヤツはいないので、段々話し掛けたくなってきた。
何が目的かは一切分からないけども、こんな何も無いだけの生活は辛すぎる。
学校に居ても、家に居ても、居場所なんてなくて。
掃除を押し付けられて、と、さっきは心の中で反芻していたが、本当はそれを良しとしていた。
どこに居ても休まる場所が無いので、せめて一人で居られるこの科学室を選んだんだ。
いやまあ押し付けられる過程が無いと、こうはならないんだけども。
俺は窓に近付き、窓を開けようとすると、その男子はビクッと肩を揺らして目を丸くした。
いや何か開けてほしそうだったから開けて話そうと思っているのに、そんな驚くなよ。
”予想外確定だぁ”じゃないんだよ、開けるよ、開ける。
窓を開けて俺は話し掛けた。
「何か用あるの確定だろ、何なんだ一体?」
その男子はキョロキョロ見渡してから、こう言った。
「そこから科学の匂いがしたけども、そこは科学の部屋なん?」
「何なんだよ、そのくくり。どういう価値観で生きてるんだよ」
「科学の部屋かどうか聞いてるんじゃ!」
そう少し甲高い声を出したその男子。じゃ口調?
いやまあ科学の部屋、そんな言い方したことないからアレだけども、
「科学室という薬品とか置いてある部屋だけども。棚には鍵掛かってるから取り出せないけどな」
俺がそう答えておくと、その男子は急にえっへんといった感じに偉そうに踏ん反り帰りながら、
「その程度の科学で科学室とは! やっぱり地球は科学レベルが細いんじゃ! 極めて細いんじゃ!」
「どういうことだよ、オマエは地球外生命体なのか?」
と俺が聞くと、その男子は俺に向かって指を差しながら、
「おっ! 君の頭脳は幾分マシのようじゃ! 極細の人間ではないみたいなんじゃ!」
「オマエの細(ほそ)いじりはどうでもいいんだよ、細さで全てを表現するな。地球外生命体かどうかまず答えろよ」
「僕は地球にやって来たアムロという、そちらの言い方をすれば地球外生命体なんよ!」
まさか地球外生命体とエンカウントするとは。
確かに日本人らしくない見た目だけども、北欧と言ってしまえば北欧確定なんだけどな。
まあ本人がそう言っているのだから、そうだと思うしかないな。
アムロという男子は窓に手を掛けて、何だか中に入ろうとしてきた。
でも全然腕力も要領も無いらしく、どうやればいいか分からないといった感じ。
それはそれで科学力無いだろ、みたいなあたふた具合。
最終的に頭だけをズルリと窓に突っ込み、何か脳天から着地しようとし始めたので、
「話があるなら俺が外に出て話すけども」
と言うと、アムロは顔をバッと上げて、
「最初からそうするんよ!」
と叫んだ。
いやオマエが何も言わずに入ろうとするからだろ。
言いたいことあったら喋れよ、マジで。
俺は言いつけるように、
「じゃあ今から外に出るからこの場所から動くなよ、連絡先も知らないんだから絶対に動くなよ」
するとアムロは、
「何か偉そうなんよ、党首の立ち位置?」
「偉そうではないよ、とにかく動くなよ」
「討論は対等なんよ」
とか何か言っていたけども、俺はもう無視して歩き出した。
玄関へ行って、靴を履き替えて、科学室のほうへ歩いていった。
着くと、そこにアムロの姿は無かった。
動くな、と言ったのに動いたか、何か動くような気もしていたしなぁ。
残念という気持ちを込めた深い溜息が出た時に、やっぱり俺は誰かと関わり合いたかったんだなと改めて思う。
こんな訳の分からない存在にもすがってしまう今の俺。
当たり前だ、と思いながら家路に着いた。
家に着いた。こうなったらもう絶対的に一人確定で。
家に帰ってくるとまた脳内で反芻してしまう。もうクセだ。両親は離婚して、父親側についたけども、その父親も多分駆け落ち。今は父方の祖父から支援してもらって一人暮らししている。
お金の援助があるだけ有難いけども、元々祖父母は僕を愛している様子も無かったので、一緒に住むことはNGとなった。
そのことが小学校に知れ渡ると、それを理由にイジメが起きた。
今は沈静化しているけども、俺は所詮都合の良い存在になった。
でもまあ押し付けられることも別にそんな悪くないと、もはやそう思ってしまっているところもあって。
どうせどこに居ても一人なのは変わらないわけだから、何なら何か仕事をしていたほうが気が休まるくらいだ。
と反芻していても仕方ないので、暗くなるまで日の光を家に入れようと、カーテンを開けると、なんとそこには四角いロボットが立っていたのだ。
まるでさっきのアムロというヤツみたいに。
俺は窓からロボットのほうを覗き込むと、頭が正方形で胴体は長方形で、でも手は人間のように滑らかな五本指で、足も人間のような膝のある足だった。足先はまたただの長方形に戻っているし、顔は簡易的で、まるで雪だるまの顔みたいに、ボタンをハメただけみたいな無機質さだけども、二足歩行で自立していて、そこからは科学力を感じた。
科学力ってまさか、俺は窓を開けてそのロボットに対してこう言った。
「オマエ、アムロのロボットか?」
するとロボットはコクンと体を縦に揺らしてから、
「その通りです。アムロ様とお話をして頂けないでしょうか」
「いや俺は元々そのつもりだったけども、アイツがいなくなって」
「申し訳御座いません。アムロ様はこらえ性がありません」
こらえ性がありません、と言う従順そうなロボットっているんだ、と思いつつ、俺は外に出ることにした。
またこの間にロボットがいなくなっていたら嫌だなと思っていたけども、そのロボットはちゃんとさっきいた場所にいた。
「それではあなた様、まずお名前を聞かせてください」
「俺の名前? 俺は格之進、津川格之進だ」
「格之進様ですね、インプットしました」
「ところでオマエ、何で俺の家が分かったんだよ」
「それはですね、アムロ様は出会った生物の居場所が分かる機械を使用しているからです」
何だよそれ、ストーカーご愛用確定じゃん。
あのアムロというヤツ、マジで科学力がすごいのかもしれない。
まあこんなすらすらと喋るロボットも使っているみたいだし、すごい地球外生命体なのかもしれない。
ロボットは会釈をしてから、
「それではこちらへどうぞ。ちなみに私のことはポンコツロボットと呼んでください」
「いやポンコツじゃないだろ、絶対。自立してるし、喋りもちゃんとしているし」
「会話しかできないからです」
「会話が一番だろ」
そんな会話をしながら、近くの公園に行くと、そこにアムロがいた。
アムロは半そで短パンで、三月初めの新潟ではちょっと肌寒くないか? とは思った。
まあでもそういうヤツも小学校にいるし、いいか。
アムロは俺を目視するなり、何か氷のように固まった。この瞬間に凍ったのか?
俺はアムロの前まで来てから、
「何だよ、急に停止して」
アムロはゆっくり口を開いた。
「オマエが動くな、と言ったからじゃ」
「今やってんのっ? 全然意味無いから!」
つい大きな声でツッコんでしまうと、頬を膨らませたアムロは、
「ちゃんと埋め合わせはしないとダメと思ったんじゃ!」
「いいよ、そんなこと。というか俺に用があるんでしょ、一体何なんだよ」
と言いつつも、俺は心臓が高鳴っていた。
こうやって俺と関わり合いを持とうと、接してくれるヤツは地球にはいなかったから。
地球外生命体で全然良いし、会話が得意なロボットでもすごく嬉しい。
早く何か、何か俺に役割を与えてほしい。
誰かから何かを言われたくて仕方ないのだ。
アムロは意を決したような瞳をしてから、こう言った。
「賢そうなオマエにお願いがあるんじゃ、ギアを一緒に探してほしいんじゃ」
「……ギア?」
俺は頭上に疑問符を浮かべた。
アムロも何か一緒になって小首を傾げたところで、ロボットが喋り出した。
「アムロ様、格之進様にちゃんと説明しましょう。どんな賢いお方でも初見では無理です」
「そうかそうか、じゃあ説明してやるんじゃっ」
何か偉そうだなと思いつつも、まあそれくらいは別にいいとは思っている。
何故なら小学校には何も無くても偉そうに俺に何か言ってくる連中は山ほどいるからだ。慣れってヤツ。
最初のコメントを投稿しよう!