【猿と対峙】

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【猿と対峙】

・ ・【猿と対峙】 ・  猿はステップを踏み、まるでダンスバトルのウォームアップの動作のように跳ねている。  距離を詰めたと思ったら、また遠くなって、実際ダンスバトルのように威嚇する身振りを加えている。  野次馬はそれを見て、動画を取り始めた。  猿を撮っている人は勿論、ポンコツロボットを撮っている人もいて、まずこの野次馬が邪魔だなと思った。  現に猿は時折野次馬のほうも威嚇して、野次馬がワーワーキャーキャー言っていてうるさい。  猿の知能が上がっているのなら、多分真正面から挑んでこないだろう、と思ったところで、猿は急に野次馬のほうへ飛び掛かり、野次馬が一気に法則性の無い渦となった。  どこかへ向かって走っていく人たち、そしてこっちへ向かって走ってくる人たち、絶対この中に紛れてくると思って俺は野次馬のいないほうへ走った。  ポンコツロボットも俺に釣られて、同じ方向へ走ったんだけども、アムロだけは急に走ってきた野次馬にビックリしてしまい、どうやら足がすくんでしまったらしい。  野次馬がいなくなって、アムロの状況が分かるようになった時に気付いた、アムロが猿に首根っこを掴まれていることに。 「ききききー! コイツがザコの人質だー!」  そう言って猿がニヤニヤしている。人質作戦を知っているなんて、前言撤回確定、結構知能が高い。 「コイツを無事に帰したいんならその袋をおれにくれぇー!」 「助けてほしいんよ! しょうがないから袋をこの猿にあげるんじゃぁ!」  とアムロが叫ぶと、猿がその場に尻もちをついて座ってしまっているアムロの背中を軽く蹴って、 「誰が猿だよ!」  と猿が言った。いや猿確定ではあるだろ。  蹴られたアムロはしょぼんと肩を落とした。  ポンコツロボットはもうあわあわして、どうしようもないといった感じだ。  でも猿の野次馬へ飛び掛かる速度もそうだし、運動神経は決してそこまで高くないと言える。あくまで今までの動物の中では、という話だけども。  勿論野生の生物で危険なことは間違いないけども。  もし俺が能力を上げるギアを使って走り込んだら、猿は防衛本能が働いて逃げていくか?  逃げて行く可能性は無くないとは思うが、俺ぐらいの速度では倒すまでにはいかなそう。  でももし、ポンコツロボットが猿に向かって走ってタックルすればそのまま倒せそうな感じがする。  ただポンコツロボットがもう完全にポンコツモードに入ってしまって、こっちのオウム返しに気付いてくれなさそうだけども。 「きききききー! さっさと袋をおれに渡せー!」  そう言ってまたアムロの背中をボコボコ蹴ると、その中の一発が強めだったらしく、 「痛いんよー!」  と涙目で手足をじたばたさせた。  そのアムロのじたばたくらいで、猿がちょっと「えっ、危なっ」みたいな顔をしたので、やはり体力はそこまでじゃないらしい。  知能が上がったことにより、感情が生まれて、猿の状態が顔に出やすくなっているような気がする。  やっぱりここはポンコツロボットに猿へ向かって走らせる行動をオウム返しさせるしかない。  一旦アムロにトランパーで作戦を伝えようと思ったけども、何かポロリと言いそうなので、何も言わないことにした。  こういう奇襲作戦は味方を騙すことも必要だし。  喋っている言葉は全部猿に聞かれるけども、ポンコツロボットに話し掛けるしかない。 「ポンコツロボット、しっかり俺の話を聞いてほしい」  そう言うと猿が嬉しそうに笑いながら、 「ポンコツロボットってそのロボットのことっ? ポンコツて! ポンコツて!」  何だかツボに入ったようだ。  それならいい、俺はいつもよりポンコツロボットのことポンコツと言って、間を埋めよう。 「ポンコツロボット、そんな慌てないでほしい。ポンコツロボットには俺もアムロもついている。大丈夫、そんな慌てる必要は無いんだ」  そう言って俺は優しくポンコツロボットの肩のあたりを叩いた。  ポンコツロボットは挙動不審のようにキョロキョロしていたんだけども、なんとか一旦落ち着いた。  相変わらず猿は、 「ポンコツて! 確かにポンコツだ! きききききー!」  と笑っている。そうだ、笑って楽しんでいればいい。時間を作れればきっといけるはず。 「ポンコツロボット、俺のことを信じてオウム返ししてくれ、分かるか? オウム返しって。俺のやっていることを繰り返すことだぞ。それをすればいいだけだから」 「きききききー! オウム返しの説明を受けるって相当のポンコツだぁ!」  ポンコツロボットにはオウム返しと言えば理解することは知っているが、猿を笑わせて、猿の警戒を解きたくて、あえてこういう言い方をした。  たとえこういう言い方をしても、ポンコツロボットは気に病むようなヤツじゃないので、こういう言い方をしても大丈夫なのだ。  ポンコツロボットはふぅと間を開けてから、 「でも、アムロ様が捕まってしまい、もうどうしようもありません……」 「大丈夫、俺のオウム返しをすれば絶対に大丈夫だ、まず深呼吸、深呼吸」 「深呼吸」 「いや言うんじゃなくて! 落ち着かせるような、自分をクールダウンさせるようにするんだよ! ポンコツロボット!」  と俺があえてお笑いのツッコミのようなテンションで言うと、猿はさらに大笑いした。  だいぶ猿はポンコツロボットのことを見下しているように見える。状況は既に整っている。  あとはポンコツロボットが自分に自信を持ってくれれば。 「ポンコツロボット、自分に自信を持って、そして俺を信じてほしい。俺が動く方向と同じ方向を向いて一緒に走り出そう。そう俺たちの夢へ向かって」  あんまりはっきりと『猿に向かって走る』とは言えないので、できるだけ隠しつつも、でも伝わるように、と。  猿は笑いながら、 「夢へ向かってってなんだよぉー、こういう人間のお涙頂戴めっちゃ面白ーい! きききききー!」  よし、気付いていない。大丈夫、きっと俺の真意にポンコツロボットも気付いているはず。 「ポンコツロボット、俺はオマエのことを一番に信じている。全て伝わっていると信じているからいくぞ!」  するとポンコツロボットはこくんと頷いてから、こう言った。 「わたくし、格之進様のこと信じます。もうわたくしはポンコツじゃございません!」  それに吹き出すように笑った猿。  俺は即座に袋から能力を上げるギアを使ってすぐに、オウム返しの合図のポーズをとった。  猿は俺がギアを使った様子を目視したので、 「おい! ちょっと! こっちには人質が!」  と言ったんだけども、無視して猿に向かって走り出した。  猿は焦りながら、 「おいおい! それで腕伸ばされたら!」  と言ってアムロから離れて逃げ始めた。中途半端に知能が上がったことで怖いという感情も生まれているようだ。ここも狙い通り。俺がそう思ったところで、タイムラグで、時間差でポンコツロボットが走り出した。 「猿に向かって俺と一緒にタックルだ!」  ポンコツロボットは俺を追い越して猿にタックルを喰らわせると、猿は吹っ飛んで、ギアが飛び出した。  そのギアを俺は拾って袋に入れて、自分が使用した能力が上がるギアも体内から出して、袋に入れてから、アムロに近付いて、 「大丈夫か、ケガしていないか?」  と言うと、アムロが俺から袋を奪うように取ってから、急に立ち上がり、何だか俺から距離をとった。  何なんだ一体と思っていると、ポンコツロボットが俺の傍に戻って来た。  俺はアムロに対して、 「どうしたんだ? もう本来の任務というヤツを行なうのか?」  と聞くと、アムロはデカい声でこう言った。 「やっぱり格之進は危険なんよ! 格之進だけはここで倒しておくんよ!」  そう言ってなんとアムロは全部のギアを使ってその場で大きくなったのだ。あの時のように5メートルくらいになった。  俺はどういうことか理解できず、でもなんとか思考しようとしていると、アムロがこう言った。 「僕の任務は地球の制圧なんじゃ! 征服するんよ! でも格之進は絶対に邪魔なんよ! だから疲れているうちに倒すんよ!」 「えっ!」  と俺が生返事をしながら、ポンコツロボットのほうを見ると、ポンコツロボットも何だかビックリしているようだった。  アムロは続ける。 「ポンコツロボットはそんなこと知らないんよ! ポンコツだからそんなこと知らないんよ! これは僕たちの計画なんよ! でもポンコツロボットよ! 主従は僕なんよ! 僕の言う通りに格之進を倒すんよ!」  するとポンコツロボットは震えながら、こう言った。 「嫌です。格之進様はわたくしのことを信じてくれました。いろんな手助けをしてくれました。格之進様を倒すことはできません」 「ポンコツロボット! 主従はこっちなんよ! まあ僕の命令にはどっちにしろ拒否できないんよ! ポンコツロボット! 格之進にタックルを繰り出すんよ! 倒すまで! 絶対に! 絶対命令じゃぁ!」 「えっ、あっ、えっ……」  ポンコツロボットの体がギギギギと動き出したので、俺はポンコツロボットから距離をとった。  どうなるのか見ていると、ポンコツロボットの体は輪ゴムが弾け飛ぶように体が揺れたと思ったら、猛スピードで俺に向かって突進してきた。 「嫌です! 嫌です!」  そう言いながら俺に向かって走ってくるポンコツロボットに俺はオウム返しのポーズをしてから、方向転換の動きをしてみた。  するとポンコツロボットはタイムラグナシで方向転換して、俺が方向転換した方向へ(すぐ止まれないらしく)二十歩くらい走ってから、また拒否するように体がギギギギと一旦止まっている。  ヤバイ、これを繰り返すことは可能だけども、結局ジリ損というか、精神的にくる。  あの猛スピード相手に、正確に方向転換して、とか考えるの、脳に響く。  まさかこんな展開になるなんて、どうすればいいのだろうか。
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