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【ギアとは】
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・【ギアとは】
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アムロは拳を強く握り、空のほうを見ながら、こう叫んだ。
「ギアとはっ! 特殊能力を発動できるアイテムじゃっ!」
めっちゃ唾飛んでた、真上に飛んだから別にいいけども。
アムロは落ちてきた自分の唾に対して、小さな声で「ちべたっ」と言った。自分の唾が冷たいほうなんだ。
いやそんなことはどうでもいい、が、つまりは、
「そのギアが無くなったから一緒に探してほしいということか」
「何で分かったんじゃ! エスパーなんよ! あっ! もう僕! トランパーを渡したんかっ! ポンコツロボット!」
そう言ってポンコツロボットのほうを見たアムロ。
ポンコツロボットは首を左右に振ってからこう言った。
「トランパーはまだ渡していませんが、アムロ様はさっき探してほしいと仰っていますので、それで推測できたと思われます」
アムロは小声で「すごっ」と言ってから、俺のほうを見て、
「ここまで話が早いと僕と話が合うからいいんじゃ!」
と言って嬉しそうに僕の肩を叩いた。
何か話にノイズが多いな、もっとちゃんとスピーディーに話をしてほしい。
トランパーとか訳の分からない単語を当たり前のように使われることも面倒確定だし。
俺は少しイライラしながら、
「ギアの話? それともトランパーからする? ちゃんと分かるように手早く教えてくれよ」
いつもそうだ。俺の周りの人間は頭が悪い。
人のことをイジメて頭が悪い。それを止めようとしないことも頭が悪い。そもそも離婚なんて頭が悪い。駆け落ちも頭が悪い。全部全部頭が悪い。
少しくらい思考を反芻して今何すればいいか考えるべきでは? と思っていると、アムロがわなわなといった感じに震えてから、こう叫んだ。
「何でトランパーを知っとるんじゃ! コイツ! 上官なんじゃ! 採点しに来たんじゃ!」
「俺は抜き打ち検査しに来たヤツじゃないから、アムロ、さっき自らトランパーと口にしていたから」
「なんと! 僕はトランパーと口にしていたとは! でもそれに気付くことがすごいんじゃ!」
「普通だよ、違和感ある言葉を聞けば誰だって『何?』ってなるから。じゃあまずそのトランパーの説明をしてほしい」
するとアムロはコホンと一息ついてから、少し偉そうに喋り出した。
「本来、地球人が手にできるような科学力の商品ではないんじゃ」
「商品ってなんだよ、通販みたいに言うな」
「普通に売っていて我々が日常使いしているモノだからこの言い方でいいんじゃ」
「分かった。それは分かったから、そのトランパーとはどういうコミュニケーションツールなんだ」
と言ってみると、アムロは目が飛び出るほど驚いてからこう言った。
「何でコミュニケーションツールだということが分かるんじゃ! もうトランパーを使ってるんよ! 格之進は!」
ポンコツロボットも少し慌てたように、
「どうして分かったのですか、格之進様」
と言ったので、俺は淡々と説明することにした。
「これからしたいことが分かる分からないのタイミングで言ったから、多分何か伝える道具なんだろうなと思ったんだよ。それが辞書なのか、スマホ・・・」
と言いかけたところでアムロはまた唾を飛ばすように、
「ぶぶー!」
と声を荒らげてから、こう言った。
「辞書じゃないんじゃ! 正解はテレパシーし合うアイテムじゃ! 対象相手に教えたい心の声を放つアイテムなんよ!」
俺は呆気に取られて黙ってしまうと、ポンコツロボットが、
「多分ですが、格之進様はテレパシーし合うアイテムだということを言いかけていたと思われます」
「でもぶぶーなんじゃぁ!」
そう子供のように言い張ったアムロ。何だこの自分で全て言いたいみたいなヤツ。ガキ過ぎる。
科学力を持っているだけで、コイツ自体の精神年齢は相当低いんだろうなぁ。
まあいいや、
「トランパーはテレパシーできる道具ってことだな。理解した。で、探さないといけないギアはどこにいったか分かるのか?」
と俺が冷静に言うと、アムロは大地を割るくらいのデカい声で、
「適応が早過ぎるんじゃぁぁあああ! もっと猿のように驚くんじゃぁぁぁああ!」
と言ったんだけども、まあ別に、と思って、
「そういうリアクションみたいなことを俺に期待しないでくれ。それよりそのギアって他者に渡るとヤバイんじゃないか? 勝手に他の生物が特殊能力を発動したら危険確定だろ」
ポンコツロボットはピョンピョン飛び跳ねてから、
「格之進様は頼もしいです! 早くギアの検索を開始しましょう! 早速レーダーに一つ強い反応が出ています!」
と言うと、アムロは首を横に振ってから、
「いやもうそろそろ夜が近いんじゃ、探索は明日からにするんじゃ」
と言ったので、ふと空を見ると、確かに夕暮れが近付いていた。
街灯は明かりを灯して、鳥も巣に帰っていくような、そんな空気感だ。
俺は気になったことを聞くことにした。
「アムロはテントみたいなモノがあるのか?」
「あるけど味気ないんじゃ、誰か泊めてくれたらいいんよ」
そう言いながらこっちをチラチラ見始めたアムロ。
いやもう言いたいことがあれば直接言えよと思ったけども、まあ言い出しにくいという気持ちもあるんだろうと思って、
「じゃあ俺の家で泊まるか?」
と聞くと、アムロは目を輝かせながら、
「そうするんじゃ! これから短い間だけどもよろしくなんじゃ!」
と言ったので、まあ俺も寂しいし、その辺はウィン―ウィン確定だなと思っていると、ポンコツロボットが少し申し訳無さそうに、
「でも格之進様は御両親にどう説明するのでしょうか……」
俺は即座に、
「親いないから大丈夫、気にしなくていいよ」
と言うと、アムロは急に俯いたと思ったら、すぐに顔を上げて、
「じゃあ遊びたい放題なんじゃ!」
そう言ってバンザイして、ガキ過ぎると思ってしまった。
ポンコツロボットは反比例するかのように、会釈を何回も俺にした。
ポンコツロボットの顔は雪だるまみたいだが、眉毛も目もあって、それが逐一上がったり下がったりするので、ちゃんと感情があって気持ちが分かる。
つまりはだいぶ気を遣ってくれているような表情をしていて、俺はもうそれで充分だと思った。
だから、
「それを知ってそういう顔をしてくれるだけで俺は大丈夫、ポンコツロボットは優しいな」
と言っておくと、ポンコツロボットはパァっと顔が明るくなって、
「そう仰ってくださる格之進様のほうが心優しいんです!」
と言った。
アムロはどういう意味の会話をしているんだろうと小首を傾げていた。いやガキは分からないほうがいいで確定だ。
アムロとポンコツロボットは俺についてきて、そのまま家の中に入ってきた。
あとさっき普通にポンコツロボットって言っちゃったけども、全然ポンコツじゃないよなぁ、と思ったけども、それ以外の呼び方も無いし、それで統一することにした。
家には三週間に一回、祖父が持ってきてくれる冷凍食品と缶詰があるので、食には困らない。昨日持ってきてくれたばかりだし。
困ることと言えば、そうだな、
「まだ理解しなければならないことがある。ギアの特徴を教えてほしい。あとトランパーは俺も使っていいのか?」
それに対してアムロは面倒クサそうな溜息をついてから、
「その説明は全部ポンコツロボットがするんよ、僕はこの地球のテレビというモノを見てみるんじゃ!」
そう言ってリモコンをしっかり見ながら、ボタンを押して、操作し始めた。
ポンコツロボットはあわあわ俺とアムロを交互に見始めたので、
「俺は全然ポンコツロボットの説明でいいよ、とにかく誰だっていいから教えてほしいんだ。今後のこと」
「分かりました。わたくしがご説明します」
そう言って拳を強く握ったポンコツロボットに俺は、
「じゃあこっちの、台所のほうのテーブルでいいか? 座れる?」
と俺は座りながら、ポンコツロボットに聞くと、
「わたくしも座っていいんですか?」
「地球の成人男性くらいまでの重さならね」
「80キロです」
「全然大丈夫、座って座って」
ポンコツロボットは俺の対面に座って、喋り出した。
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