【ギアとトランパー】

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【ギアとトランパー】

・ ・【ギアとトランパー】 ・ 「ギアとは特殊能力を発動するアイテムという話は既にさせて頂きましたが、そのギアは宇宙から降りてくる時にばら撒いてしまい、無くしてしまったのです」  そう言ったポンコツロボットへ俺は、 「どうしてばら撒いてしまったんだ?」  と率直な疑問をぶつけると、ポンコツロボットは少々言いづらそうに、 「アムロ様が上空で窓を開けながら確認した時に手が滑ってしまい……」  ポンコツ過ぎる。ポンコツロボットの何倍もポンコツなのでは? いやまずポンコツロボットをポンコツと本当は思っていないので、もうアムロだけめちゃくちゃポンコツだ。  ポンコツロボットは続ける。 「ただ上空と言ってもそこまで上のほうではなかったので、この街の近くに全て落ちたと思われます。現にレーダーにもそのように映っております。反応の強弱はありますが」 「レーダーがあるならそれなりに安心だな」  そう俺が言うと、ソファーに座ってテレビを観ているアムロがこっちを振り返りながら、 「おっ、頑張ってるな、全部やってくれやってくれ」  とバカ坊ちゃまみたいな、少し甲高い声でそう言って、本当にそう確定じゃんと思った。  ポンコツロボットはどこからともなく、薄い膜のようなモノを取り出してから、こう言った。 「これがトランパーというアイテムで、これを付けることにより、喋らなくても遠くに居ても意思疎通ができるようになります。自分の思考とは別にトランパーを使用して喋るという感覚は慣れて頂くしかないので、早速付けて頂いてよろしいでしょうか?」 「どうやって付けるの?」 「こめかみに貼るだけで大丈夫です」  言われるがまま、俺はその薄い膜をこめかみに貼ると、なんと喋っていないはずのアムロの声が聞こえてきたのだ。 《この女の子可愛いんじゃぁ……地球という国のレベルもなかなかでいいんじゃぁ……》  俺はポンコツロボットへ、 「アムロの独り言みたいな声が聞こえるけども」  と言うと、ポンコツロボットは後ろ頭をぽりぽりと掻きながら、 「アムロ様はトランパーの使用が上手くないようで、無視してあげてください」  いや全然普段使いできてない確定じゃん。大丈夫なのか、アムロって、と思っていると、 《こういう女の子、全部僕のモノにしたいんじゃぁ》  というアムロの声が聞こえてきた。うん、大丈夫じゃない確定だ。ダメだ、コイツ。  まあこのトランパーという道具は喋る声と自分だけの思考の声とトランパーの声の三つを使い分けるわけか。  こうすれば、トランパーの声になるのかな? と思いながら、トランパーの、このこめかみの膜を意識しながら心の中で喋ってみることにした。 《聞こえるか、アムロ》 《おっぱ……! 格之進がトランパーを使ってるんじゃ!》  そのトランパー独特の震えた、リバーブの掛かった声と共にこちらを素早く振り返ったアムロは立ち上がって、 「格之進にトランパーを渡したん? これでじゃあもう意思疎通も楽々なんじゃ!」  と声を上げたアムロに俺は、 《せっかくなんでトランパーで会話したらどうだ?》  と言ってみると、アムロは笑ってから、 「僕にそんなトランパーの練習みたいなもんはいらないんよ!」  と言った。いや全然必要っぽいんだけども。  まあいいや、自分で気付いていないんだったらもうそれでいいや。俺が言っても改善するようには思えないし。  そうだ、 「トランパーの声はポンコツロボットには聞こえていないのか?」  とポンコツロボットへ聞くと、すぐさまアムロが、 「格之進もトランパーを使っとらんのじゃ!」  と叫んだんだけども、俺は淡々と、 「いやポンコツロボットがトランパー使えるかどうか知らないからポンコツロボットのために声に出したんだけども」  と答えておくと、ポンコツロボットは、 「わたくしは使えません。ロボット用のトランパーは持っていないので」  じゃあやっぱり声に出して良かったんじゃん、とは思った。  というかアムロって何も把握していないのでは? それとも全部言われた上でのこれなのか。後者ならバカ確定では? いやもう確定でいいような気がするなぁ。アムロは頭が悪くて少し嫌だな。ポンコツロボットは今のところOK。  アムロは挙手しながらまた振り返ってテレビのほうを見ながら、 「じゃっ! あとのことは全部よろしくなんよ!」  と言った。  あとのことって何かギア探しも全部みたいな印象を受けてしまった。いやさすがにポンコツロボットへの説明の話だと信じたいけども、と思ったところで、 《格之進に任せれば何でもできる気がするんよ、めっちゃ使えるヤツで良かったんじゃ》  と絶対対象相手に聞こえちゃいけない心の声が聞こえてきて、完全にダメなヤツ確定になった。  まあいいや、それでも使えるヤツと言われているだけ良いと思おう。  何故ならそんな言われようでも喜んでしまっている自分もいるから。  うん、俺はそこまで人との対話に飢えているんだ。  存在意義が欲しいと思っている。だからこれで別にいいんだ。 「じゃあポンコツロボット、何でポンコツロボットがポンコツロボットと言われているゆえんを教えてほしい。どう会話しても俺はオマエがポンコツロボットのようには思えないんだ」 「これには理由が二つあります。一つ目は簡単な命令しか実行できないからです」 「会話とか説明って相当複雑な命令だと思うけどな」 「そう仰って頂けることは有難いのですが、わたくしは元々戦闘用で、それなのに考えて行動することが苦手なのです」 「戦闘用……」  俺はそう反射的に呟いて黙った。  どう見ても戦闘感のある、威圧的な感じではなかったから、疑問符が浮かんでしまったような状態だ。  ポンコツロボットは続ける。 「簡単な動作しかできないので、武器も持ち合わせておりません。その分、力が強く設定されていますが、それも宝の持ち腐れと言ったところです」  慣用句とか使うんだ、と思いつつも、俺は、 「でも敵をパンチやキックしろ、と命令すればできるんでしょ?」 「いいえ、いざという時にわたくしは、いわゆるテンパってしまい、何が何やら分からなくなるんです。つまり自分で思考ができなくなるんです」 「それは、元々戦闘用ではないのでは? ポンコツロボットの話を聞いていると、会話用のロボットに戦闘機能をあとから付け足したことによって、不具合が生じているといった感じの印象を受けるんだけども」  するとポンコツロボットは思考しているような間を少し持ってから、 「もしかしたらそうなのかもしれませんが、そこはよく分かりません。わたくしはそういったようにインプットされているので」 「そっか、出自の情報もプログラミングされたまま喋っているのなら、そうなってしまうか」 「わたくしのことを思考して頂き感謝しております。でも大切なのは今わたくしができることです。説明させて頂きます」 「あっ、話の腰を折ってゴメンね。説明してください」  そう言って俺が会釈するとポンコツロボットも会釈してから喋り出した。 「わたくしがポンコツロボットと言われるゆえんの二つ目が、結局オウム返ししかできないということです」 「オウム返し?」  とバカみたいに俺はオウム返ししてしまうと、ポンコツロボットは頷いてから、 「両手の人差し指を上に差すという合図をわたくしに送ってから、とある動作をするとわたくしはそのとある動作をオウム返しができます、が、そのオウム返しするまでタイムラグがあるのでポンコツロボットと言われています」 「試しにやってみていい?」 「はい、どうぞ」  とポンコツロボットが俺に向かって優しく手を向けたので、俺は早速両手の人差し指を天井に向けてから、座った状態でバンザイを三回すると、その1.5秒後ぐらいにポンコツロボットはその場でバンザイを三回した。  そのバンザイをしている時の表情は無機質な表情で、本当にプログラミング通り行なっているといった感じだった。  それが終わったあとは、またポンコツロボットの表情がさっきまでの柔和な感じに戻ってから、 「これで大体の説明は終わりました」  と言った。  俺はまだ気になったところがあったので、 「オウム返しは俺もさせることができることは分かったんだけども、ポンコツロボットへの指示というか命令も俺はできるもんなの?」  ポンコツロボットは「おっ」と何か気付いたように体を軽く仰け反らせてから、こう言った。 「正式な命令はアムロ様からしか受けることができません」 「正式な命令と、えっと、会話というか、テーブルに座ることを促して座ってもらったりすることにはどういう違いがあるの?」 「前者は絶対に逆らえないこと、後者は自分で考えて行動することができること、と、いった感じです」 「分かりやすい説明ありがとう」  そう俺が言うと、ポンコツロボットは照れているような表情で笑った。  いやいや、マジで全然ポンコツじゃない、と思ったところで、 《何かこの役者、アイドルに近くて腹立つんじゃ》  というアムロのトランパー越しの心の声が聞こえてきて、一般的なファン心理かよ、と思った。
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