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【トランパー】
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・【トランパー】
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俺はベッドで、アムロはどこからともなく取り出した布団の中で、ポンコツロボットはアムロの傍で座って、目を瞑っているような顔をした。
結局アムロはずっとテレビを観ていた。否、俺がお風呂から戻ってきたら、戸棚のポテトチップスを開けて食べていた。
でもそのことは知っていた。何故なら、俺のお風呂中にトランパーがまた響いて、
《ポテトチップスとか食べてもいいはずなんよ。もう家族みたいなもんなんよ》
という声が聞こえてきたから。
家族、絶対家族じゃないけども、その家族という響きも俺にとっては甘美だった。
弟ってこんな感じなのかなとか思った。
俺の本当の弟は母親のほうについていったけども、まだ俺も小さかったし、あんまり覚えていない。
だから今、疑似的に体験しているといった感じだ。いや疑似的に体験しているのか? よく分からない。
いやまあ深く考えても仕方ない。今は早く寝て、明日からすぐにギアを探さなければな。
明日から土曜日で二連休だから、この連休の間にギアが見つかればいいなぁ、でもギアって何個あるんだろううか? そこ聞き忘れたなぁ、でもまあ三個くらいだろ。なんとなくだけども。
……とは言え寝付けない。
当たり前だ、こうやって大勢で寝るなんて環境に慣れていないから。まあ大勢と言っても地球外生命体とロボットの+2だけども。
とは言え、またとは言えと反芻してしまったけども、本当にとは言えなんだ、本当に。とは言え確定状況なんだよな、と思ったその時だった。
《僕のどこがそんなにダメなんよ……》
トランパー越しにアムロの声が聞こえてきた。
俺はバッと目を開けて、アムロのほうを見て、耳を澄ますと、間違いなくアムロは寝息を立てて寝ていた。
ポンコツロボットからは何も音が聞こえないので、やっぱりこの小さなイビキはアムロから発せられているはず。
じゃあこのトランパーの声は何なんだ……?
《やめてほしいんじゃ、そんなこと言わないでほしいんじゃぁ》
もしかすると夢? 夢の中で喋っている言葉が聞こえてしまっているのか?
アムロ、トランパーとシームレス過ぎる。全然もう全部駄々もれじゃん。もっと普段使いしろよ。
《僕はポンコツ技師じゃないんよ、ちゃんとできるはずなんよ》
でもこの夢、何か周りから悪口を言われている感じ……?
これは過去なのか、それともアムロが作り出した嘘の夢なのか、でもアムロの言動的に自ら自分を追い込むような夢を勝手に見るようには思えないので、これは過去に実際に遭ったこと……?
《何であんなポンコツロボットをよこすんよ、こんなんじゃいくら天才アムロ様とは言え難しいんよ》
ポンコツロボットって、この、今一緒にいるポンコツロボットのことか?
《もっと期待して欲しいんよ、こんな細(ほそ)期待、どうすればいいんよ》
細(ほそ)って昔から言ってんだなぁ。
《太(ふと)希望をぶつけてほしいんじゃ》
やっぱり細(ほそ)の対義語って太(ふと)なんだ。
《僕は未来の太客なんよ、この任務が成功したら僕が王者なんじゃ》
任務……まあギアを空中でばら撒いたことはミスとして、アムロはどんな任務を持って地球に来たのだろうか?
《戯言じゃないんよ、本当なんよ、そんなこと言わないでほしいんよ……誰も助けてくれないんよ……》
何か、よく分かんないけども寂しそうだな。
もしかしたらアムロも俺と一緒で爪弾きなのかもしれない。
ちょっと感情移入してしまうかもしれない。多少バカみたいな言動をしていても許してしまうかもしれない。詳しくは知らないけども弟みたいな感じだし。
まあ今の段階でバカだと諦めている分、結構許していたけども、うん、何か、なぁ……ちゃんと対話してあげようとは思った。勿論それは自分のためにも。
結局その後、アムロは静かになって、深い眠りについたといった感じだった。
そんなアムロに促されるように、俺も寝たらしい。
起きたら、カーテンから日の光が零れてきていた。
俺は起きてすぐに歯を磨きながら、スマホを確認していると、なんと緊急速報というモノがスマホに入っていて、そこにはこの地区に大きなネズミが出現していて、森の木をかじっていると書かれていた。
すぐさまポンコツロボットを起こそうと、ポンコツロボットに近付くと、ポンコツロボットは目を開いたので、
「ポンコツロボット! 大きなネズミが出現しているらしい! これってギアのせいじゃないかっ?」
するとポンコツロボットは体についたポケットのようなところからスマホのようなモノを取り出して、こう言った。
「レーダーが大きく反応しているところがありますね。手に入れたギアを使用したようですね。その大きなネズミの出現スポットとこのレーダーが示しているところは一緒ですか?」
俺はポンコツロボットのレーダーと緊急速報に書かれた白宿森の位置を何度か確認してから、
「間違いないと思う。絶対ギアの力で強化された生物だと思う。ネズミが大きくなったんだってさ」
「それなら巨大化するギアですね。大事になる前に現場へ直行しましょう」
もう既に大事になっている気がしないでもないけども、俺は外に出掛ける準備をし始めたところで、やっとアムロが布団から上体を起こしてから、
「格之進に全部任せるんよ、あっ」
《格之進に全部任せるんよ》
いや!
「トランパーで言い直すとかどうでもいいから! ポンコツロボットへの指示も出さないといけないからアムロも来るんだよ!」
「面倒なんよ」
「シンプル面倒確定すな! アムロのギアなんだから!」
「でも格之進だけでもいける気がするんよ、格之進はもっと自分を信じるべきなんよ」
「家でテレビ観ていたいだけだろ! とにかくアムロも来いって!」
「今回だけなんじゃ」
「そんなことないわ!」
そんな会話をしながらも、俺とアムロとポンコツロボットは外に出た。
するとアムロは、
「ポンコツロボット、おんぶするんよ、急ぐんよ」
と命令を出し、ポンコツロボットはおんぶするためその場に膝をついた。
まあやる気のないアムロは走る速度も遅そうだし、これがいいのかな、と思っていると、急にアムロが、
「いたたたたたたあぁぁぁぁああああああああああああ!」
と叫んで、その場に後頭部から倒れそうになったので、俺はなんとかアムロの肩に腕を回してそれを回避すると、アムロが大きな声で、
「ポンコツロボット! 掴む力が強いんよ! だからポンコツなんよ!」
と荒らげた。ポンコツロボットは振り返ってアムロに対して何度も頭を下げながら、
「申し訳御座いません! 申し訳御座いません!」
と言っていた。いやもう話が全然進まない、から、
「アムロ、俺がおんぶするから直行しよう」
と言うと、アムロは目を輝かせて、
「それが一番いいんよ!」
と言って俺に飛び乗って来た。
まあアムロは俺から比べると体も小さいし、全然軽いし、これでいいや。手のかかる弟だと思えば可愛いもんだ。
「ポンコツロボット、最短距離の誘導よろしく」
そう俺が言うと、ポンコツロボットは何だか右往左往と目をキョロキョロし始めたので、あぁ、こういうことかと思って、
「アムロ、ポンコツロボットに最短距離の誘導を、先導をしてほしいということを命令してほしい。俺がついていけるくらいの速度で」
「分かったんよ! ポンコツロボット! 今格之進が言ったことをするんよ!」
と言うと、ポンコツロボットは「はい!」と返事してから、白宿森へ向かって走り出した。
これくらいの命令になるとアムロがいないといけなくなるわけか。やっぱりいないとダメじゃん、と思った刹那だった。
《おんぶしてくれるなら行ってあげてもいいんよ》
いや行ってあげるのはむしろ俺のほうなんだけどもな。
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