【大きなネズミ】

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【大きなネズミ】

・ ・【大きなネズミ】 ・  白宿森に着くと、そこは木々が今にも折れそうに削り散らからされていた。  辺り一帯、削られた杉の木の香りが蔓延していて、正直むせ返りそうになる。  というか粉も目に見える大きさなので、目に入ったら痛くなりそうだ。  ポンコツロボットと一緒に森の入り口から中央突破しようとしたら、既にそこに警察官がいたので、僕はアムロに指示を出してもらって、ポンコツロボットと共に入り口ではなくて、ちょっと隅のほうから入り込んだ。  さて、大きなネズミをとにかく探してギアを取り返すというわけだけども、そうだ、大切なことを聞いていなかった。  でもまあ多分あるだろう、と思いながら、 「ギアを取り返すための装置というか吸引するような道具はあるのか?」  とおんぶしているアムロに聞くと、アムロは俺の背中の上で暴れ出したので、おろすとアムロは俺のほうを見ながらこう言った。 「そういったもんは無いんじゃ! そいつをぶっ飛ばすしか方法は無いんじゃ!」 「……はっ? ぶっ飛ばすって物理的に殴るとかそういうこと?」 「そういうことなんじゃ! だからそのために戦闘用ロボットであるポンコツロボットがいるんじゃ!」 「じゃ、じゃあポンコツロボットは闘えるわけだな……」  と俺はおそるおそるポンコツロボットのほうを見ると、ポンコツロボットは頭を抱えてしゃがんでいた。  いや、ちょっと、 「ポンコツロボット……何そんな、憂鬱みたいな感じになっているんだ……」  ポンコツロボットはこちらをチラリと見てから、 「やっぱりわたくし、闘えません……」  と言ってまた下を向いた。  いやいやいや、それだとヤバイだろ。大きいネズミ相手に人間は無力だろ、多分。  サイズによるみたいなところもあるかもしれないが、杉の木の削れ具合から見ると、口の位置が杉の木の根元から1メートルの位置にある。  ということは最低でも1メートル以上、なんて計算きっと間違っている。いやこれが立って削っているのならそれほど大きくないかもしれない。  でも四つ足の状態で削っているのなら、その上に頭があるわけだから、高さは4メートルくらい? ヤバイ、ヤバ過ぎる、いやでも! 「ポンコツロボットは力が強いんだろっ? じゃあ防御力も高いんじゃないか!」  俺が焦って大きな声を出すと、アムロも頷きながら、 「その通りじゃ! ポンコツロボットは本当に頑丈なんよ! 頑丈が極太なんじゃ!」  でもポンコツロボットはうなだれるようにしゃがみ込んで、ぶるぶる震えながら、 「でも、でも、やっぱりわたくしには無理です……その場で佇むことしか多分できません……アムロ様から命令されたとしても闘えません……動き方が分かりません……」  俺はすぐさまアムロへ、 「じゃあアムロが光線銃みたいなものを持ってるんじゃないか! 護身用とかいろいろあるだろ!」  アムロは首を横に振って、 「そういうモノは暴発するかもしれないと言われて持たされてないんよ! そんな暴発なんてしないのによぉ!」  と不満そうに言った、が、まあ暴発はしそうだなと思ってしまった。  そうか、アムロは武器ナシで、ポンコツロボットも何もできないのなら、もうギアを取り返すことはできないのでは? と思って、俺は意を決して、 「一旦退避したほうがいい!」  と言うと、アムロは「エイエイオー!」と返事して、即座に俺の背中に飛びついてきた。  こんな時でもおんぶされようとしてくるのか、少し甘やかし過ぎたかなと思っていると、なんと目の前にもう大きなネズミが近付いてきていたのだ。  この時、直感的に逃げられないと思った。  何か威嚇して後ずさりさせなければ襲われる、そう思った。  だから俺は一か八か叫んだ。 「ポンコツロボット! 佇むだけでいいから立ち上がってくれ!」  その声に目を瞑るように立ち上がったポンコツロボットへ、 「俺のほうを一瞬でもいいから見てくれ!」  と言うと、ポンコツロボットは俺のほうを見たので、オウム返しさせるため、天を指差してから三歩進んでキックする動作をした。  するとポンコツロボットは1.5秒のタイムラグがあった後に、三歩進んでキックをした。  そのキックが巻き起こした風はすさまじく、砂埃、というか宙に浮いていた杉の木っ端が波動のように大きなネズミのほうへ飛んでいった。  その波動に大きなネズミは喰らっている表情をしながら、後ずさりをした。  この距離なら逃げられる。でも今俺たちが逃げたところでどうするんだ?  これは間違いなくアムロのミスだ。アムロのミスからこういうことが起きてしまったんだ。  ならば自分のミスは自分で拭わなければならないだろう。  アムロは俺の背中の上で震えているが、俺はアムロを振り落とすように体を揺らすと、アムロは尻もちをついたようで「ひゃん!」と言った。子犬確定かよ。  いやそんなことはどうでもいい。 「アムロ、逃げるのは止めだ、やっぱりここで俺たちが倒すぞ!」  アムロは大きな声で、 「そんなことは無理なんじゃぁ!」 「じゃあ役割分担だ! アムロは木陰に隠れていろ! ポンコツロボットは常にアムロのほうを見て、オウム返しできる態勢を整えておけ! 俺が大きなネズミを誘導してポンコツロボットの前に行くから、タイミングを見計らってアムロはポンコツロボットにキックをオウム返しさせろ! あとポンコツロボットは大きなネズミがまだ遠い時は俺のほうも見ること! それくらいはできるな!」  ポンコツロボットはその場に立ち尽くしたまま、 「そ、それなら……」  と言ってから頷いた。  するとアムロが俺の肩を触りながら、こう言った。 「何でそんなことしてくれるんじゃ……」 「俺は頼られたことはやる性分なんだよ」 「でもこれはその範疇越えてるんよ……多分地球程度の科学力でも戦車を投入したら勝てるんよ……」 「戦車や戦闘機が辿り着くのはいつだ? まずは猟友会や警察官が配備されるはず。何がどうなっているか理解できていない人間が前線に立つよりも、これはギアで大きくなっているということが分かっている俺たちのほうが心的に有利だろ」 「それを説明すればいいんよ……」 「それを説明して理解してもらえる科学力じゃないこと確定なんだよ! そもそもこれはアムロ! オマエのミスだ! 自分のミスくらい自分で拭いやがれ!」  俺がそうアムロに睨むように言うと、アムロはビクンと体を揺らしたあと固まった。  俺は続ける。 「アムロは俺を頼ったよな、じゃあやってやるよ、そういうことから逃げること、俺は苦手だからな」  するとアムロも闘志を燃やすような瞳をしてから、 「僕も! 僕もやってやるんよ! じゃあ隠れるんよ!」  そう言って速足で木陰に移動した。  一瞬大きなネズミがアムロのほうに視線を送ったので、すぐさまポンコツロボットに合図を送って、またキックをさせた。  大きなネズミはすぐにこちらのほうを要警戒といった感じになった。  あくまで大きくなっただけで知能指数はネズミのままということだろう。  さぁ、勝負だ、と思ったところでトランパーの声が聞こえてきた。 《危なくなったら格之進には悪いけども逃げるんよ……》  まあそう考えているだろうなとは思うけども、そんな声を漏らすなよ、普通に士気下がる確定だろ。オマエのミスなんだよ。  でも全部知った上で逃げ出すのは俺の性に合わない。俺は逃げ出す人間が嫌いだ。だから俺も逃げ出さない。  両親は、特に父親は俺から一番に逃げ出した。そんな人間に成り下がりたくない。俺はアムロからもポンコツロボットからも逃げない。  さて、ポンコツロボットはタイムラグがあるから、ジャストタイミングで蹴らすことは現実的じゃない。  ということは大きなネズミがポンコツロボットの前で止まることが一番良い。  そんな都合の良いことは、起こせる。多分こうすれば起こせる。  俺はトランパーでアムロに話し掛けた。 《今から大きな声でポンコツロボットにそこから絶対動くなという命令を出してほしい》 《それは嫌なんよ! 大きな声を出したら狙われるんよ!》 《キックのオウム返しをさせて、そのタイムラグの最中に言ってほしい。それならきっとキックをしてから動かなくなるはず。そう例えば、最後のキックを終えた後、大きなネズミが突進してきたとしてもその場で耐えてくれ、って》 《もう一回言ってほしいんじゃ! 覚えられないんよ!》  アムロはマジでポンコツだな、と思いつつも、それはもう確定していることなので、ゆっくり言うことにした。 《最後のキックを終えた後、大きなネズミが突進してきたとしてもその場で耐えてくれ、と言ってほしい。勿論キックの動作をしてからな》 《覚えられたんよ! じゃあいくんじゃ!》 《おう!》  アムロはキックの動作をしてから、大きな声を上げた。 「最後のキックを最後に、ネズミが突進してきたとしてもその場で耐えるんよ!」  その声に反応した大きなネズミ、だったが、すぐさまポンコツロボットがキックをしたため、また注意はポンコツロボットのほうへいったみたいだ。  ポンコツロボットのほうをじろりと見た大きなネズミ、そのタイミングで、俺はポンコツロボットの後方に移動してから、 「アホネズミ、こっち来いよぉ!」  と俺は叫んだ。  分かる、動物は日本語なんて分からない、でも分かるんだ、俺の経験上、動物はバカにされているような声で言われるとバカにされていると分かるんだ。  多分そういう波長があるんだと思う。ネズミも人間の進化過程の一部と言われている。  要は、こうやって、ネズミは怒って突進してくるということだ!  大きなネズミはそのまま俺の目の前にいたポンコツロボットに当たって、その場に倒れ込んだ。  チャンスだ! 「ポンコツロボット! 今、大きなネズミは気絶していたチャンスだからキックしてほしい!」  でもポンコツロボットはあわあわしているだけだし、アムロも何か慌てているので、俺がオウム返しさせることにした。  三歩進んでキック……よしっ! タイムラグ1.5秒、大きなネズミはまだ立ち上がらない!  ポンコツロボットが! 三歩進んで! キック! ”ドガァァァアア!”  鉛のような鈍い音がその場に響いた。  大きなネズミは吹き飛んだと思ったら、徐々に小さくなっていき、完全に元のサイズに戻ったところで、目の前に輝く歯車のようなモノが出現した。 「ギアじゃ!」  すぐさまアムロが飛び出して、その輝く歯車を手にして、巾着袋のようなモノの中に入れてから、ポケットに入れた。巾着袋のようなモノはポケットに入れる瞬間に小さくなったので、どっちかが特殊な素材なんだろう。  なんとか一件落着かと思っていると、 「声がします!」  という声が外から聞こえてきて、きっと警察官が集まってくると思って、 「早く撤収するぞ! アムロ! アムロはポンコツロボットに帰る命令をしてくれ!」  と声を掛けて、俺たちは即座にその場を後にした。  俺におんぶされたアムロからは、 《すごいんよ! すごいんよ! 格之進は最強なんよ!》  とトランパーの声で聞こえて、俺も正直まんざらではなかった。
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