【昼寝しない】

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【昼寝しない】

・ ・【昼寝しない】 ・  結局俺は昼寝をせずにこうやって動いている。まあ俺は別に疲れていないからいいんだけども。  アムロも正味八分くらいだったと思うけども、ちょっと寝るだけでも結構違うからな。  俺はアムロに麦茶を渡してから、自分の分を飲みながらSNSでこの辺りの地区をチェックすると、何かやたら速いウサギの写真がアップロードされていた。  写真には残像というか、ブレてるウサギのような物体が映っていて、文章のところで”めっちゃ速いウサギ”と言っているので、多分ウサギなんだろう。  でも何か普通のウサギよりはちょっと大きいような、そんな陰というか残像というか。  俺はポンコツロボットへ、 「ギアのレーダーで速く移動しているモノってないか?」  ポンコツロボットがレーダーをチェックすると、 「ありました!」  俺は少々気になっていることを聞くことにした。 「ギアって大きくなるギアとは別に、手に入れて使うとその対象が若干大きくなったりする?」 「それはあるかもしれません。ギアは能力が上がるアイテムなので、その能力が上がることにつられて体が大きくなって強化されることはあると思います」 「じゃあこの辺に速く動くウサギがいるみたいだから、多分それがギアを手に入れたんだと思う」  ポンコツロボットは「ふ~む」といった感じにアゴのあたりを触りながら、こう言った。 「動きが速いは厄介ですね、わたくしの苦手なパターンです」  するとアムロが笑いながら、 「ポンコツロボットは何でも苦手なんよ!」  ポンコツロボットは照れ笑いを浮かべて後ろ頭を掻いた。  いやアムロが言うことじゃないだろ、アムロはもっと苦手だろ。  でも実際ポンコツロボットは速さが弱そうだ。オウム返しさせるにもタイムラグがあるし。  まあそんなこと考えていてもしょうがない。 「ギアを手に入れたウサギがいることは確定だから、直行するしかないな」  アムロは麦茶のコップを床に置いてから、 「でもウサギだから簡単なんよ!」  いや、 「コップは流し台に置けよ」  そう言いつつ俺はアムロのコップを流し台に持っていった。マジで弟確定過ぎる。  俺とアムロとポンコツロボットはウサギがウロチョロしている辺りに直行した。  その道中で俺はポンコツロボットにこう言った。 「ウサギが移動してしまったら大変だけども、レーダーは同じようなところにいる感じ?」 「はい、範囲はいろいろですが、中心部となっている箇所は変わっていないようです」 「どうしてそうなっているか理由は分かる? ウサギの帰巣本能?」 「それはわたくしには分かりません」  そう肩を落としたようなポンコツロボット。  今日は事件化していないようなので、アムロをおんぶせず歩いて行っているんだが、アムロが少々疲れたような声を出しながら、 「そういうこと考えるのは格之進の役目なんじゃぁ」 「いやギアの特性を知っているアムロ確定だろ、本来」 「でも格之進は賢いんよ、僕も勿論天才だけども、僕は起きた事象で判断するほうの繊細天才なんよ」  これも起きた事象だけどもな思いつつ、まずあの大きなネズミが俺たちを見てから逃げようとしなかった例から考えることにした。  もしかすると、 「本能的に、アムロとか俺たちが、別のギアを持っていると思って、奪おうと思ったから大きなネズミは逃げようとしなかったのか?」  それに対してアムロが、 「いやもう大きなネズミの話は大丈夫なんよ、大きいはトラウマなんよ」 「まず起きた事象から判断しろよ、例えばギアの残り香とかを嗅いで、本能的にもっと強くなろうと俺たちから逃げなかったみたいな」 「それはありえるかもしれんけど、じゃあウサギがとある中心部から動こうとしないことはなんなんよ」 「そこがギアを拾った場所だからじゃないか? またそこにギアが出現すると勘違いしているんじゃないか?」 「それはバカなんよ!」  そう言って笑ったアムロ。  ポンコツロボットは少し考えているような顔をしてから、こう言った。 「確かにそれはありえるかもしれませんね。だとしたらウサギも我々から逃げ出すのではなくて、むしろ近寄ってくる可能性があります。それならチャンスがあるはずです」 「ところでウサギが何のギアを手に入れたのか分かるのか?」  と俺が聞くとポンコツロボットが即座に答えた。 「いろんな可能性はありますが、きっと能力を強化するギアだと思います。ウサギは素早いので、その能力が上がったんだと思います」  能力を強化するギアか。それで速いというわけか。  こっちに近付いてくる可能性があるとは言え、やっぱり厄介な能力だ。  どうやってタイムラグのあるポンコツロボットを使えばいいのだろうか。  そんなことを考えていると、ウサギが出没している地域にやって来た。  するとすぐさま何だかちょっと、というかかなり大きい、体長1メートルのウサギが俺たちの目の前にやって来て、対峙した。  この感じ、 「やっぱり俺たちが持っているギアを手に入れようとしているみたいだな」 「この大きくなるギアは渡さないんよ! というわけで格之進! 追いかけるんよ!」 「いや無我夢中に追いかけても負け確だろ」  と言ったところでウサギは急に何か変顔というか、バカにしているような顔になった。  どうやら挑発しているようだ。でもこんな顔になったとて、と思っていると、 「地球の人間ならまだしも地球のウサギ程度がじゃぁ! このギアが入った袋は格之進が持ってるんじゃ! 僕がとっつかまえるんじゃ!」  そう俺にギアが入っている巾着袋のようなモノを手渡すと、アムロがウサギに向かって走り出したのだ。  ポンコツロボットが慌てるように、 「待ってください! アムロ様!」  と言っても振り返りもせずに、突進していった。  が、当然かわされて、さらに挑発するような表情。  それにアムロが、 「僕をバカにするなんて許せないんよ!」  と言ってまた走り出したが当然追いつくような感じはしない、というか遊ばれている。あえて速度を落として、捕まえられそうな感じを演出しては、近付いたところでダッシュで振り切るみたいな。  ポンコツロボットが心配そうにおろおろしているので、 「まあこっちは作戦を考えるか。まずはちゃんとウサギの様子を観察することだ」  俺がそう言ってもポンコツロボットはあわあわしていて、何だか気が気じゃないといった感じだ。  結局考えて、作戦に移すのは俺しかできないらしい。  あぁ、あのウサギ、昼寝してくれると有難いんだけども。 「待つんよ! 待つんよ!」  アムロ、そんなこと言っても止まるはずないだろ、と思っていると、トランパーの声が聞こえた。 《そもそも追いかけるのは格之進の役割なんよ! 僕は司令塔のはずなんよ!》  そこから間髪入れずに、 「ちょっとぉ! おかしいんじゃぁ!」  とめちゃくちゃ叫んだ。  すると何だかウサギが嫌な顔をしてブレーキを踏んだように止まったので、 「何か今チャンス! アムロ!」  と言ったんだけども、アムロはへろへろと歩きながら、ウサギのほうじゃなくてこっちへ向かって歩いてきて、 「これは格之進の役目なんじゃぁ」 「いや今! 今いけるかも!」  と俺が荒らげると、あまりにも言うのでみたいな顔をしながらウサギのほうをまたアムロが見たところで、ウサギが走り出して、 「今じゃないんよ……」  とその場にしゃがみ込んでしまった。  そこにポンコツロボットが駆け寄っていって、守るようにハグをした。  今のブレーキは何なんだと思いつつも、俺はまず一個気になっていることがあるのでポンコツロボットへ聞くことにした。 「移動中、ずっとレーダー見てたよね、ポンコツロボット」 「はい、そうです」 「ウサギはずっと動いていたか?」 「はい、ウサギは一度も止まらず、ずっと興奮状態のように動き回っていました」 「ということはウサギの能力は速くなっただけじゃないようだな」  ポンコツロボットと立ち上がったアムロは小首を傾げているので、説明することにした。 「ウサギというモノは速さだけが特徴じゃないんだ。この無尽蔵の体力があるという特徴もあるんだ。だから疲れることはないだろうな」 「じゃあ無理なんよ!」  とアムロが叫んだところで、ポンコツロボットが、 「でもいつか寝るのではないでしょうか」  と言ったので、俺は頷きながら、 「それはあると思う。でも寝る時は最大の弱点なわけだから、どこかに隠れてしまうような気がするんだ」 「もう不可能なんよ……」  そう言って肩を落としたアムロ。  いやでも、と、俺には試してみる価値のある方法を浮かんでいた。  だから、 「またウサギが俺たちを挑発しに来た時に、ポンコツロボットは思い切り手を叩いてほしい」 「思い切りって、どのくらいですか?」  とポンコツロボットが頭上に疑問符を浮かべたので、 「じゃあいいや、ポンコツロボットは優しいから加減しちゃうかもしれないから、俺がオウム返しさせる。これでいこう」 「それなら安心です」  と嬉しそうに頷いたポンコツロボット。  アムロはまだ何も分かっていない顔をしながら、 「それの何になるんじゃ?」  と言ったところでまたウサギがこちらに近付いてきた。  何かダンスバトル始まる直前のウォームアップみたいなステップを踏んでいる。 《もしかすると一気に奪いに掛かってくるかもしれない》  と俺はトランパーでアムロに話し掛けた。 《じゃあ危険なんよ!》 《だから俺がオウム返しさせたあと、耳を塞いでほしい。絶対だぞ》 《何だか分からんが分かったんよ!》  俺はポンコツロボットへオウム返しさせるため、両手の人差し指を天に向けて合図を送ってから、思い切り手を叩いた。  タイムラグの間に俺も耳を塞いだ、その時だった。 ”ガチィィイイイイイイイイイイイイン”  金属と金属がぶつかり合う高音が周りに響いた。ポンコツロボットが手を思い切り叩いたんだ。  するとウサギはショックを受けたように動けなくなったところで、俺は、 「アムロ! ポンコツロボットをウサギのところまで前進を指示してくれ!」 「ポンコツロボット! ウサギの近くまでいくんよ!」 「はい!」  と言いつつも、ポンコツロボットは合図を送らなくても前進していってる。  多分大きなネズミの時は攻撃してくるかもしれないという恐怖があって動けなかったんだろう。言うても体長1メートルくらいのウサギには平気といったところか。  最後のキックの指示はアムロが出した。  ポンコツロボットのキックで吹っ飛んだウサギから、また光る歯車が出てきた。あれがギアだろうな。  ウサギ死んでいないか? と思ったけども、そのものの体の防御力自体も強化されているらしく、大丈夫そうだった。  ギアを手に入れてからアムロが俺に向かってこう言った。 「何でいけたんよ!」 「アムロが大きな声を出した時、ウサギが嫌な顔をして止まったんだ。ということはもしかしたら聴力も強化されているんじゃないかなって。うるさい音を聞くと動物はショックを起こして気絶するもんだから」 「格之進は僕の次に賢いんよ!」  いやそれは絶対俺のほうが賢い確定だろと思いながら、帰路に着いた。
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