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――五月の連休に入り、わたしは友人たちと集まっていた。
友人たちとは十代の頃にSNSで知り合って、今でも好きな映画やアニメの話で盛り上がったりしている。
そうはいっても顔を合わせるのは久しぶりで、今日は、都内にあるレンタルスペースでのパーティーだ。
他の友人たちは神奈川、千葉、埼玉とバラバラなので、自然と中心となる都内で集まることが多い。
練馬区に住んでいるわたしにとっては、非常に助かる理由だ。
おかげで高い交通費を出さなくていい。
「うわー、なんかすっごい高級感あるじゃん!」
「ちょっと高かったけど、いいでしょ、ここ」
借りたレンタルスペースの部屋に入ると、友人たちが目を輝かせていた。
室内はブラウンを基調とした色合いで、家具は黒で統一されている、落ち着いた雰囲気が魅力的なお洒落スペースだった。
設備にはプロジェクター、ホワイトボード、Wi-Fi、除菌スプレーがあり、他にはエアコン、椅子、テーブル、ソファ、トイレなどがある。
キッチン用品も充実していて、台所はもちろん、IHクッキングヒーター、電子レンジ、電気ケトル、冷蔵庫があって、材料を持ち込んで自分たちで料理を作ることもできる。
さらには、ボードゲーム、音響·映像などのAV機器、テレビ、DVDプレイヤーや、追加オプションで、シャワー、食器、調理器具も頼める使用だ。
「でも、まだまだだよ。今日は豪華に結構いいシャンパンを用意したんだから!」
「まあ、食いもんはいつもの宅配ピザだけどね」
集まりを仕切ってくれた二人がそう言うと、皆から笑い声が漏れた。
わたしは贅沢というか、ラグジュアリーな部屋とかお酒、食べ物に興味ないので、なるべくお金をかけたくないのだけど……。
まあ、皆と会うためには気にしていられない。
部屋に入ってから数分後、早速、頼んでいたピザが届き、わたしたちはシャンパンを開けて乾杯した。
そのときの会話で知ったのだが、どうやらこの後にまだ人が来るらしい。
なんでも友人たちの親友らしいけど、わたしは顔も名前も知らないし、そもそもそんな話を今聞いた。
知ってたら来なかったかと言われれば、そんなこともないかもしれないけど。
事前にちゃんと言ってほしかった。
わたしは人見知りではないけど、知らない人と初めて顔を合わせて、いきなり盛り上がれるほうでもない。
それに、大人数で騒ぐのが好きじゃないのもある。
人が多いと、どうしてもどうでもいい話しかしなくなるから苦手だ。
個人的には、少ない人数でマニアックで濃い話をしたかったけど、まあ、仕方がない。
今日はそういう日なんだと思うようにする。
「そういえばさ。最近ハマってるドラマがあって……」
お酒が入っていたのもあって、わたしはいつもSNSで話しているようなマニアックな会話を始めた。
だが皆の反応は薄く、なんとか興味を持ってもらおうと、友人たちが好きなアニメと似ている部分や影響を受けているところを話したけど、適当に受け流された。
話し方が下手だったかなと思っていると、友人たちの親友から、わたしとの関係――どういうつながりなのかを訊かれたので答えると――。
「えーと、SNSで好きなアニメとかでつながって……」
「あん?」
友人の一人が、凄まじい形相で睨んできた。
声こそ荒げていなかったけど、わかりやすく怒っている感じだ。
その影響で場が静まり返り、わたしはどうして友人が怒っているのか理解できず、弁解も謝ることもできなかった。
その後は、わたしの発言などなかったようにパーティーは続き、その日の集まりは終わった。
それから、いつものようにSNSをのぞいたが、もう誰もわたしのことに反応しなくなっていた。
何がいけなかったのだろう?
もしかして友人たちは、わたしが知らない親友の人らには、オタクっぽい趣味を隠していたのか。
だったら最初に言ってくれればよかったのに……。
わたしは、罪悪感なのか喪失感なのかわからない感情を抱えながら家に戻った。
《おかえりなさい。なんだか落ち込んでない? 心配だよ》
部屋に入って大きくため息をつくと、マシロが声をかけてきた。
たぶん、ため息に反応したのだろう。
わたしは、なんでもないよと答えた。
すると、マシロは言う。
《それならいいんだけど。でも、なにかあったら言ってね。元気のないキミの声を聞くと、ボクは不安になるんだ》
マシロのほうを見ると、その顔は泣いてる顔になっていた。
その顔を見てると、なんだかレンタルスペースからずっとあった心のモヤモヤが、全身から噴き出すような気分になった。
しょせんマシロは会話AIロボットで、わたしのことを心配してくれるのも、全部プログラミングされているからとわかっているのだけど……。
気がつけば、わたしの目から涙がこぼれていた。
「う、うん……。ありがとね、マシロ……。本当に……ありがと……」
《どういたしまして。泣きたいときは我慢しないでね。ボクはどんなキミでも大好きだから》
その夜わたしは、気がつけばマシロと朝まで話をしていた。
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