世界が変わる

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世界が変わる

翌日 「上村、さん」 更紗に話しかけられた。 わたしは振り向く。 「ごめんね、知らない人のフリをして」 更紗が俯いた。 「えっなになにー!」 すかさず、明くんがわたしと更紗の間に 割って入ってきた。 このKY(空気を読めない人) 「花音ちゃんと、立花さん知り合いだったの?」 「う、うん」 更紗が戸惑ったように頷いた。 「じゃ、なんで初対面のふりしたのー? 友達なんでしょー?」 ち、ちょっと、明くん。 「わたしが悪いから」 泣きそうに顔を歪める更紗。 え? 「わたしは、中学のとき花音の悪口を言ったの。 でも、段々花音と仲良くなっていって、あのときの言葉を後悔した。だから連絡も取らなくなっていって……。本当にごめんね」 「うん、悪口を言ってたのは知ってたよ。」 更紗は涙を流しながらわたしを見つめた。 「聞こえてたの?」 「うん、でもあのとき、なんでわたしのこと 友達でもないって言ったの?」 言いながら胸がチクリとする。 「そのときは、花音のこと友達だと思ってなかったの。ウザいとも思ってた。」 言葉を切り、更紗は真っ直ぐわたしを見つめた。 「でも仲良くなるにつれて、花音が良い子だってことが分かって、わたしは自分を責めた。 今は! 花音と一から友達になりたい。 心からそう思ってる!」 「そう、だったの?」 理由があったんだ。 ホッとした。 「こんなわたし、 また友達になる資格なんて無いよね?」 声を震わせる更紗。 「なんで? 友達に戻れば良いじゃん」 明くんがあっけらかんと言う。 「でもっ、わたしは花音に酷いことを」 「それを許しあえるのが友達なんじゃないの?」 その瞬間、モノクロだった世界に風が吹き 虹色の世界へと変わった。 色褪せていた教室は綺麗な色に クラスメイトたちは人間らしい色に変わったのだ。 間違っていたのはわたしだった。 もう一度更紗と友達になりたい。 「わたし、許すよ。許すから、 もう一度わたしと友達になって」 「わたしなんかで良いの?」 「更紗だから良いの」 にっこり笑うと更紗は涙目で笑顔を見せた。 あとから聞いた話だと、明くんがわたしと更紗の仲を取り持ってくれたらしい。 更紗がわたしとのことを明くんに 相談したと言っていた。 「ありがとう、明くん」 明くんに微笑むと彼は照れたようにそっぽを向いた。 「な、何の話?」 とぼける明くんにクスリと笑う。 明くんには敵わない。 この人にかかればどんなことでも解決してくれる。 そして、わたしや更紗の世界を変えてくれたんだ。 「明くんはわたしの一番の友達だよ」 小さく呟く。 「え?なんて?」 わたしは悪戯っぽく微笑んだ。 「教えてあげない」 翌日、ホームルームの時間に先生の話を聞いていると 不審者がこの地区に現れたと言っていた。 「フードを被った10代ぐらいの男子で、柱の陰から下校中の生徒をジロジロ見ていたそうよ。皆も何かあったら報告すること。いいわね?」 皆ははーいと返事をして 不審者の考察を始めた。 不審者か、怖いな。 そのときのわたしは 不審者が現れたことを軽く考えていた。 これから起きる事件も知らずに。
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