事件

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事件

「明くん、今日は本当にありがとう」 夕日が眩しい中、わたしは笑顔を見せる。 いつものつくり笑顔じゃない、本物の笑顔だった。 「え? 俺何もしてないよ?」 キョトンとする明くん。 とぼけているのは知っている。 「わたしと更紗を仲直りさせてくれたじゃない」 「あぁ、あれか、俺思ったこと言っただけだから」 目を泳がせる明くん。 バレバレだよ。 「それでも、ありがとう」 にっこり笑うと明くんは照れたように 斜め下に視線を落とすと頭を掻いた。 「それで、明くん」 視界に包丁を持っている フードを被った人物が映った。 『フードを被った10代ぐらいの男子で、柱の陰から下校中の生徒をジロジロ見ていたそうよ。』 先生の言葉が蘇る。 フードを被った男子。 「明くん、あの人って……」 明くんはわたしの言葉に反応して振り向いた。 男はフラフラと明くんに向かって歩いてくる。 危ないっ!! 「ダメっ……!!」 わたしは明くんを守るように前に出る。 わたしのお腹に刃が沈む。 その光景がスローモーションのように見えた。 「うっ!!」 包丁が抜かれると激しい痛みに襲われ お腹を押さえて、その場に倒れ込んだ。 「花音ちゃん!!」 明くんがわたしの名前を呼び肩をゆする。 血が滴る包丁を手にした男は動揺した様子を見せ 逆方向へ逃げた。 あぁ、意識が朦朧としてきた。 「花音ちゃん!!どうしよう、このままじゃ!!」 平気だよ、と言いたいのに声が出ない。 感覚がなくなっていく。 明くんが泣きそうになっているのが ぼやけた視界に映り、意識が真っ暗になった。
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