#6

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「ただいま、お客さんよ」  クロエは樹木の扉を開き、中の人間に声をかける。  セナはゆっくりと歩を進めて、樹木の中を覗き込んだ。  てっきり洞穴のようなのを想像していたが、中は意外にも天井のランプで照らされ、廊下に両側に取り付けられた扉が見える。 「そいつ、粛清者じゃねぇかよ」  わらわらと出てきた人々のうちの一人の男が、ずいっと出てきてセナのことを睨む──反応としては案の定といえよう。 「てめぇ、何しにきた?今すぐぶっ殺して……」  男が胸元に手を入れるのを見て、セナもすぐさまガンフェルノを握りしめる。 「やめなさいレオ!セナは私の旧友よ」 「……旧友か」  レオと呼ばれた男は、クロエの声で静まる。 「信用、できんのか?」 「できる」 「そうかよ。おい、セナとか言ったな」  レオは脅すような口調で、セナに向かい合うと、 「少しでも怪しい挙動や、仲間に手を出してみろ。その眉間に穴が空くぜ?」 「やめなさいったら」  レオは銀色の拳銃を半分まで出してセナに見せるが、そんな物で動揺するなら粛清者は勤まらない。  クロエさえいなければ、こんな隠れ家はガンフェルノでレオもろとも焼き尽くしているところだが、彼女には聞き出したいことがたくさんある。  ここは一旦大人しくしておこう──命拾いしたな。  セナは表情をぴくりとも変えず、クロエに案内されるまま、隠れ家に足を踏み入れるのだった。  ★  隠れ家の奥にある部屋の扉を開けると、小さなベッドが二つ並んでいた。クロエは「座って」と促し、片方に腰を下ろした。  セナも彼女に向かい合うようにベッドに座る。 「セナ」 「クロエ」  ほぼ同時に口が開いた。 「セナからどうぞ」 「クロエ、自首するなら今だぞ」  セナは開口一番に、クロエの改心を申し出た。 「本来、違反者の主犯格は処刑だが、こうして隠れ家の場所を自白した。酌量の余地はある。私が減刑を取り合ってもいい」  無論、何年かは更生所送りにはなるだろうが、それでも殺されるよりはだいぶマシなハズだ。 「私は総統と仲がいい。他の仲間も、悪いようにはしない。クロエ、みんなで自首してくれ。幼馴染として、お前を救いたい」  母を処刑した時の総統は、先代のレジーナの父だったため、この交渉は成立しなかった。  しかし、今こうしてクロエを救う手立てがあるのなら、彼女のことを命だけは見逃してもらうことは難しい話ではないだろう。  レジーナとて、無闇な殺生を好む性格ではない。きっと分かってもらえるはずだ。 「自首するつもりはないよ」  だが、クロエの返答はセナなりの最大限の交渉を踏み潰すものだった。 「ここを隠し通せると思っているのか?私が話さずとも、絶対に見つかる。国の目を欺こうとしたって無駄だ」  さっき取り押さえたアジトだって、違反者の自白によって明るみに出た。悪事や秘密はそう長く隠せるものではない。 「セナ、交渉は無駄だよ」 「何故分からない?お前が首を縦に振らないと、私は強引な手段に出なくてはならない」  この隠れ家は木造のため、セナがその気になってガンフェルノのトリガーを一度引けば、一瞬にして火の海と化してしまう。  そうしたくないから、こうして交渉を持ちかけているというのに……。 「セナ……」  クロエは手を伸ばし、セナの膝上に置かれた手に乗せようとする。 「触るなっ!真面目に聞け!」  すぐさま手を払いのける。  ──ずきり。  彼女の指先が当たった瞬間、胸が傷んだ。  あの時──あのかつてクロエを拒絶した時と、同じ痛み。 「……うっ、うう」  乗り越えたはずなのに。  打ち勝ったはずなのに。  押し殺したはずなのに。 「なぜだ……?」  胸を鷲掴みにして、深呼吸。  呼吸が荒くなるのが分かる。 「セナ」  クロエは彼女の名を呼んで、ゆっくりと顔を近づけてくる。  痛みと同時に、セナの胸の中を酷く熱いものが襲った。 「よせっ!くるな!」 「セナ、ダメよ」  彼女の肩を掴んで、そのままぐいっと押される。  すぐに押し返そうとするが、体にうまく力が入らず、そのままベッドに仰向けに押し倒される。 「やめるんだクロエ!こんなの間違ってる!私たちは獣じゃないんだぞ!?しっかりと人間として、こんな乱れた行為をしてはならないんだ!」  そこでようやく、クロエは感情を露わにした。 「どうして好きな人に好きって言っちゃいけないの!?なんで自分に嘘をつくのよ!」 「違反者の戯言に耳を貸すつもりはない!規範を守ってこそ人間でいられるんだ!」  セナは先人から教わった言葉を、自分に言い聞かせるように叫ぶが、クロエの力に上手く抵抗できずにいた。 「お前らの獣の思想は、人類の進歩を妨げる!くだらない多様性や劣情を排除してきたから、人間はここまで来られたんだぞ!」  わーわーと口達者に言いながらも、ジャケットコートのボタンを外され、ずるりと脱がされる。そのままシャツを脱がされ、なされるがまま彼女は下着姿にされてしまう。 「お前たちのくだらない考えに従う気は──」 「セナ」  クロエの手がセナの言葉を覆い隠す。 「好きだよ」 「──ッ!!」  とろりとした彼女の瞳が、セナの心を射止める。  身体中に熱と痛みが走り回った。  呼吸が更に熱くなり、頬の熱が急上昇したのが分かる。 「ずっと我慢してたの。しよう?」 「やべ……ろっ!」  セナは口では拒絶していても、もはや、ほとんど抵抗していなかった。  体が受け入れようとしているのが、分かった。  そのまま下着を外され、裸になったセナの首筋にクロエの舌が這いずり回る。  それだけで、かつてない快楽に脳が満たされ、ばかになっていくのを全身で感じた。  そのままセナは、クロエになすがままにされてしまった。
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