地獄とAI

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地獄とAI

 錆のような臭いが鼻を劈く。地下からは罪人のうめき声が床を貫通して聞こえてくる。目の前に広がるのは灼熱のマグマ。殴られたら一溜まりもないであろう金棒を肩に担いだり、警察よりも恐ろしい目つきでこちらを凝視したりする鬼達。俺と同じようにここへ連れてこられた、天国へ行きたいと強く願う亡者達の行列。  そして行列の先には、人型ロボット。いや、何故? 「えー、本日は閻魔大王様がぎっくりご……ゴホン、失礼。体調不良の為、こちらのAIが裁判を担当する!」  スーツ姿の幹部らしき鬼がくいっと眼鏡を上げながら淡々と説明した。一瞬「ぎっくり腰」って言いかけなかったか。ツッコみたいことは他にも山程あるが、そもそも地獄に何故、AIが? 「体調不良とはどういうことだ! ふざけるんじゃねえ!」  亡者の列の先頭に居る男性が声を上げた。 「貴様、言葉を慎め! 大王様は罪人を裁くときに格好つけたくて、“有罪(ギルティ)!”と声を張って叫ぼうとされた。そのために少々腰を反らした際、腰がお亡くなりになられた訳ではないからな!」  丁寧な説明あざっす。閻魔大王って意外とお茶目でドジで子供心満載なのか? 「で、そこで今回用意したのがこちらのAI、“YAMA(エンマ)”だ!」  エンマと呼ばれたAIは、一見女性としか捉えられないほど、精密に造られているようだ。高校生が着用するような紺色のセーラー服に、膝上までしかないミニスカート。ピンク色のスニーカーに黒髪ツインテール……。  うん、AIって何だっけ。これ製作者の性癖が公開処刑されているだけでは? 「尚、貴様らが生前に起こした善行や悪事を記す閻魔帳は、このAIに全て学習させたので噓を付いても無駄だ。普段はパソコンにデータを入れてあるけどな」  嗚呼、こちら側でもハイテク化が進行しているようで。ていうか地獄のどこで機械を製造するんだよ……。
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